農業でのアルカリ電解水活用ガイド|洗浄・衛生管理での効果と限界、装置の選び方

アルカリ電解水は、水を電気分解したときに陰極側にできる高pHの水で、農業では収穫物や農機具の洗浄、施設の衛生管理、一部では葉面散布に使われています。ただし、洗浄に向く汚れと向かない汚れがあり、作物への散布効果を示す公的なデータは多くありません。この記事では、仕組み、使い道ごとの根拠の強さ、装置と費用の考え方、誤解されやすい点を、確認できた範囲で整理します。

目次

アルカリ電解水(アルカリ性電解水)とは?農業における基本と仕組み

アルカリ電解水は、少量の電解質を含む水を電気分解したときに陰極側で得られる水です。洗浄や脱脂に使われ、陽極側にできる酸性電解水とは性質も用途も異なります。ここでは、生成の原理、洗浄力が生まれる仕組みとその限界、そして酸性電解水と組み合わせて使う考え方を、日本化学工業協会の相談センターの資料やメーカーの説明をもとに解説します。

アルカリ電解水・電子機能水の定義と生成原理(電気分解とマイナスイオン)

電解水は、食塩などの電解質を少量含む水を電気分解して得られる水溶液の総称です。化学製品PL相談センター(日本化学工業協会)の資料によると、掃除用のアルカリ電解水は、食塩などを含む水を二室型または三室型の装置で電気分解し、陰極側に生成するもので、約0.2%の水酸化ナトリウム水溶液に相当するものが多いとされています。陰極では水分子が電子を受け取り、水酸化物イオンと水素が生じます。

この水酸化物イオンがマイナスの電荷を持つため、「マイナスイオンの水」と説明されることがあります。ただし、実体は薄いアルカリ水溶液です。「電子機能水」はJWSインターナショナルが使う呼び名で、同社はpH13.0の電解水を生成する装置を扱っています。名称は事業者ごとに異なり、pHや濃度も機種で違うため、製品ごとの数値を確認する必要があります。

高い洗浄・剥離力と油脂・タンパク質分解作用の仕組み

アルカリには、汚れと洗う対象の表面にマイナスの電荷を与えて電気的に反発させ、汚れを引き剥がしやすくする働きがあります。また、皮脂や食用油に含まれる脂肪酸を中和して石けんに変える「けん化」が起こるため、皮脂汚れや食用油の汚れが落ちやすくなります。タンパク質汚れにも効くとされます。界面活性剤を含まない点が、通常の洗剤との違いです。

一方で、化学製品PL相談センターは、アルカリ剤には乳化作用がなく、油性の汚れ全般は苦手だと説明しています。機械油などの鉱物油を落とす働きはなく、加熱で変性した食用油のこびりつきも、アルカリだけでは落としにくいとされています。ホシザキはアルカリ性電解水が油脂を乳化させる力を持つと説明しており、見解に差があります。汚れの種類で効果が変わると理解しておくのが安全です。

酸性電解水(殺菌用)とアルカリ性電解水(洗浄用)の違いとセット運用のメリット

酸性電解水は、殺菌力のある次亜塩素酸を含み、食品の殺菌に使われます。ホシザキは、食品殺菌に使う場合のpHを5.0以下、有効塩素濃度を10〜60ppmとして確認するよう案内しています。アルカリ性電解水は洗浄が得意で、殺菌を主目的にした水ではありません。同社のROXシリーズは、酸性とアルカリ性の両方を注出でき、洗浄と殺菌を一台でまかなえます。

セットで使う利点として、先にアルカリ性で汚れを落とし、後から酸性で殺菌するという流れが挙げられます。カット野菜の研究(日本食品科学工学会誌、2000年)では、強アルカリ性電解水で前処理すると、強酸性電解水の単独5分間の殺菌と同等以上の効果が得られたと報告されています。ただし、条件はこの研究の範囲に限られます。

農業におけるアルカリ電解水(電子機能水)の主な活用効果とメリット

農業での使い道は、収穫物の洗浄、作物への散布、化学農薬や資材の削減、農機具の洗浄の四つに整理できます。ここで注意したいのは、使い道によって根拠の強さが大きく違う点です。洗浄の仕組みは化学的に説明できますが、作物への散布効果や農薬削減は、事業者の報告が中心です。それぞれの確認できた範囲を示します。

① 収穫後野菜・果物の農薬・ワックス洗浄と鮮度保持・酸化防止効果

販売元のトラッドロイズは、強アルカリ電解水「ミツハスタンダード」について、カット野菜の洗浄では残留農薬やワックスの除去効果が認められ、アルカリイオンの働きで酸化を防ぎ鮮度を長く保つと、マイナビ農業のタイアップ記事で紹介しています。出荷前の洗浄に使うと棚持ちの向上が期待できるとしていますが、これは期待であり、数値は示されていません。

農薬除去を第三者が検証した資料は、今回の調べでは見つかりませんでした。日立の旧製品のFAQには、市販の野菜では農薬の残存はほとんど確認できず、万一あっても流水洗浄で大部分が除去できると考えられるとあります。つまり、水洗いの効果が大きい可能性があります。食品に使う電解水の扱いは、厚生省(当時)の1999年の通知があり、次亜塩素酸ナトリウムなど指定された添加物以外を含むものは未指定添加物として扱うとされています。洗浄用の陰極水を食品に使ってよいかは、この通知からは判断できず、保健所などへの確認が必要です。

② 葉面散布・散水による病害虫対策と作物の生育促進(電子機能水農法)

JWSインターナショナルは、電子機能水農法として、農薬が95%減り、生産量が20%増えると紹介しています。イチゴのうどんこ病を撃退した例、東京都の農業試験場での栽培試験でトマトが3割増収した例、ジャガイモの根の違いなどが載っています。7〜10日に1回の散布で、高濃度の液を現地で薄めて使うとされ、ミツバチへの影響がないとも説明されています。

これらは同社のページの記述で、第三者による検証結果、試験の条件、サンプル数は示されていません。見出しにあるコナジラミ、アオムシ、線虫に対する効果も、同社のページには具体的な根拠が見当たらず、今回の調べでも裏づけは確認できませんでした。法的な面では、農業で特定農薬として認められているのは、塩化カリウムなどから得られる酸性の電解次亜塩素酸水で、アルカリ電解水は含まれません。病害虫の防除を目的に作物へ散布する場合の扱いは、都道府県の担当部署に確認してください。

③ 化学農薬の使用量削減(減農薬・無農薬栽培・有機農業)とコスト削減

農薬削減の数字として確認できるのは、前記のJWSの「95%減」と、前回の記事で紹介した千葉県の農家の事例(資材費が年間40万円から2万円に下がったとするタイアップ記事)です。後者は酸性電解水を中心に、アルカリ電解水を散布後に併用している事例で、アルカリ電解水だけの寄与は切り分けられていません。

有機栽培では、使える資材が制限されます。アルカリ電解水が有機JASで使える資材として整理されているかは、今回の調べでは確認できませんでした。有機の認証を受けている場合は、使う前に認証機関へ確認してください。コスト削減を見込むなら、導入前に農薬と資材の購入額を記録し、導入後と比べる方法が確実です。

④ 農機具・収穫カゴ・選別ラインの油汚れ・着色汚れの脱脂洗浄

食用油、皮脂、タンパク質に由来する汚れは、アルカリの得意分野です。収穫カゴや作業台、選別ラインのコンテナに付く、野菜由来のぬめりや手あか、食品系の油汚れには向いています。ホシザキも、ROXシリーズは調理器具の洗浄に使えるとしています。

反対に、トラクターや刃物に付く機械油は鉱物油なので、アルカリ電解水では落ちないと化学製品PL相談センターは説明しています。こうした汚れには専用の洗浄剤が必要です。また、使えない素材が製品ごとに決まっているため、表示を確認し、目立たない場所で試してから使うことが勧められています。トラッドロイズは、塩化ナトリウムの代わりに炭酸カリウムを使い、金属を腐食しにくくした製品を紹介していますが、これは同社の説明です。

農業施設・厨房・労働環境のトータル衛生管理とコストカット

作業場や休憩室、加工場の衛生管理にも、電解水は使われています。洗剤や除菌剤を置き換えられれば、購入費の削減が見込めます。ただし、置き換えの割合や削減額は条件で大きく変わります。ここでは、集荷場や休憩室、トイレなどの掃除と消臭、洗剤代削減のコストの考え方、食品衛生法とHACCPに沿った加工場や厨房の管理について、確認できた範囲で順に説明します。

施設・作業場・トイレ・共有スペースの除菌・清掃・消臭対策

ホシザキは、酸性とアルカリ性の2つの電解水の作用で、菌を除去し、においの成分を酸化させて、においを抑える効果があるとしています。トラッドロイズも、酪農での搾乳施設のパイプラインの殺菌・清浄、豚舎の消臭などに広がっていると紹介しています。集荷場や休憩室、トイレの清掃にも使える場面は多いと考えられます。

ただし、「有害な薬剤が残らず安全」という表現には注意が必要です。掃除用のアルカリ電解水はpH12〜13と高く、手肌や目に強い刺激があるため、炊事手袋と保護メガネの着用が勧められています。目に入った場合は流水で15分以上洗い流し、異常があれば眼科を受診するよう、化学製品PL相談センターは案内しています。

洗剤代・除菌剤代の劇的なコスト削減(従来費用の約80%置き換え)

見出しにある「約80%置き換え」という数字の根拠は、今回の調べでは確認できませんでした。実際の削減額は、現在の洗剤の使い方、汚れの種類、置き換えられる範囲で変わります。トラッドロイズは、洗剤を併用する場合でも洗浄効果を助けるため、洗剤の使用量削減につながるとしていますが、割合は示していません。

自分の経営で試算するには、洗剤と除菌剤の年間購入額に、置き換えられる割合を掛けて削減額を出します。そこから、装置の年間の償却費、電気代、塩代、保守費を引きます。仮に年間20万円の洗剤を半分置き換えられるなら、削減は10万円(この数字は計算の例で、実績ではありません)です。割合はまず小さく見積もり、試験的に使ってから見直すのが堅実です。

食品衛生法・HACCP(ハサップ)に沿った加工場・厨房の衛生管理

HACCPに沿った衛生管理は、2018年の食品衛生法の改正を受けて、2021年6月に完全施行されました。原則として、すべての食品等事業者に、一般的な衛生管理と、重要な工程を管理する取組が求められます。小規模な事業者は、簡略化された「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で足りるとされています。

加熱せずに出す野菜については、厚生労働省の大量調理施設衛生管理マニュアルが、流水で洗い、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム(200mg/Lで5分、または100mg/Lで10分)などで殺菌してから、すすぐ手順を示しています。同等の殺菌剤として挙げられているのは、亜塩素酸水、過酢酸製剤、次亜塩素酸水などで、今回確認した範囲に、アルカリ電解水は含まれていません。アルカリ電解水は洗浄の工程に位置づけ、殺菌は別の方法で行う考え方が安全です。農研機構の講演資料では、微酸性電解水の低濃度の洗浄は、水洗いと差が小さい可能性も示されています。

農業用電解水生成装置の種類・仕組みと人気メーカー・製品

装置は、酸性とアルカリ性を同時に出す連続式の業務用機、高濃度の液をつくる専用機、ボトルで買う製品に大別できます。ここでは、種類と使い分け、ホシザキとJWSの機種、宮原土木建設について確認できた内容、導入費用とランニングコストの考え方を、メーカーが公開している情報の範囲で順に説明します。価格が非公開の機種も多いため、見積もりを取る際の確認点も添えます。

業務用の電解水生成装置の種類(微酸性・中性・強アルカリ性対応モデル)

ホシザキのROXシリーズは、酸性とアルカリ性の電解水を注出でき、壁掛け、アンダーカウンター、システム型、貯水分配方式のタイプがあります。流量の設定で出る水が変わり、「少」「標準」では酸性とアルカリ性が、「多」では弱酸性と弱アルカリ性が出ます。弱アルカリ性は洗浄に効果的なpHが得られないため、洗剤による前洗いが必要です。強アルカリ性はpH10.5以上が目安とされています。

見出しの「微酸性」は、酸性側の水を指し、コアテックのコア・クリーンシリーズのように微酸性次亜塩素酸水を生成する機種があります。これはアルカリ水を出す装置ではないため、洗浄用途の機種とは区別が必要です。「中性」の水を生成する農業向けのモデルは、今回確認できませんでした。

ホシザキ・JWS(SARES)・宮原土木建設等の代表的メーカー・装置の特徴

ホシザキのROXシリーズは、食品殺菌から調理器具の洗浄まで使える業務用の電解水生成装置で、水道と同じ感覚で必要なときに注出できるとされています。農業用には、前回紹介したROX-30TC-AやROX-30SA-Aがあり、酸性とアルカリ性を毎分約3.0リットル以下で生成します。

JWSインターナショナルのSARESは、pH13.0の電解水を生成する高機能型の電気分解装置で、SARES-Ⅱ300(電解槽1槽)とⅡ500(2槽)があります。電解循環方式で、本体は600×800×1600mm、重量は70kgと85kg、最大消費電力は220Wと400Wです。隔膜の交換は水質によって400〜500時間とされています。宮原土木建設については、電解水や農業との関係を示す情報が見つからず、確認できていません。

導入コスト・価格相場とランニングコスト(電気・塩・水道代)の考え方

ホシザキとJWSの装置価格は、公式ページに掲載されていませんでした。参考までに、農業用の三室型電解水生成装置SGL1000-ⅢAは、2021年の紹介記事で希望小売価格が154万円(税込)、酸性・アルカリ性とも1リットル生成あたり約1.58円の運用コストとされています(前回の記事で紹介)。ただし、別メーカーの機種のため、他社の価格の目安にはなりません。

ランニングコストは、電気代、塩(電解質)、水道代、隔膜や電極の交換、保守費です。電気代は消費電力に運転時間と電力単価を掛けて試算できます。費用対効果は、洗剤と除菌剤の削減額、作業時間の短縮、廃棄の減少などを足し、年間のコストと比べて評価します。効果を過大に見込まず、控えめな数字で採算を確認してください。

導入前に知っておくべき注意点・正しい知識と失敗しない選び方

アルカリ電解水には、洗浄力という確かな強みがある一方で、販売の場面で誇張された説明が出やすい面もあります。導入で失敗しないためには、できることとできないことを分けて理解し、目的に合う生成量と機種を選び、日々の取り扱いを守ることが大切です。ここでは、誤解されやすい点、目的別の選び方、維持管理と安全の順に説明します。

アルカリ電解水に関する正しい情報と誤解(農薬除去の実験・実演販売の注意点)

実演販売では、野菜をアルカリ電解水に浸し、水が黄色くなったことを「農薬が溶け出した」と説明する例があります。浄水器の販売店のページには、色の正体は農薬ではなく果皮の色素だろうという推測が載っています。いずれにしても、水の色が変わっただけでは、農薬が除去されたことの証明になりません。農薬を測定した結果が示されているかを確認してください。

公的な検証では、アルカリ電解水による野菜の農薬除去を示した資料は今回見つかりませんでした。農薬の残留を気にする場合は、流水でよく洗うことが基本です。また、洗浄用のアルカリ電解水は強いアルカリ性で、飲用のアルカリイオン水とは別のものです。洗浄用を飲んだり、食品に直接使ったりしてよいかは、製品の表示とメーカーの説明を確認してください。

目的(食材洗浄、葉面散布、施設清掃)に応じた最適な生成量・濃度の選定

食材洗浄では、洗う量と洗浄にかける時間から、必要な水量を考えます。ホシザキのROXシリーズは毎分約3.0リットル以下の生成能力です。毎分3リットルなら、100リットルを得るのに約33分かかります(筆者の計算)。洗浄の目的なら、洗剤の前洗いが必要になる設定に注意し、強アルカリ性が出る流量で使ってください。

葉面散布は、作物への影響や法的な扱いが不明確なため、まず小面積で試し、都道府県の担当部署に確認することが前提です。施設清掃は、強アルカリ性(pH10.5以上)を用い、保護具を着けて使います。同じ装置でも、目的で必要な流量とpHが違うため、用途を決めてから機種を選ぶ順序が安全です。

水質・生成機器のメンテナンスと安全・適切な取り扱い手順

SARESは、隔膜の交換が水質によって400〜500時間ごとに必要とされ、水質の条件として硬度60ppmが示されています。機種ごとの保守の周期と費用は、導入前に確認してください。給水の水質が悪いと、生成する水の性能も落ちる可能性があります。

取り扱いでは、保護手袋と保護メガネを着け、皮膚に付いたらすぐ水で洗い流します。アルカリ電解水は二酸化炭素に触れると徐々に中性に戻るとトラッドロイズは説明しており、長期の保管には向きません。使うたびに生成するか、短期間で使い切る運用が現実的です。排水の扱いは、強いアルカリ性の水を大量に流す場合に自治体の基準が関わるため、事前に確認してください。

まとめ

アルカリ電解水は、食用油や皮脂、タンパク質に由来する汚れの洗浄に向いた水で、酸性電解水と組み合わせると、洗浄と殺菌の流れをつくれます。一方で、機械油や熱変性した油は苦手で、強いアルカリ性のため手袋と保護メガネが必要です。野菜の農薬除去や、作物への散布による増収、害虫の抑制は、第三者の検証データが確認できず、事業者の報告にとどまります。

導入するなら、まず洗浄と施設の衛生管理を目的に、小規模に試すのが現実的です。装置の価格が公開されていない場合は、見積もりを取り、洗剤の削減額と年間のコストを控えめに試算してください。食品への使用や作物への散布は、保健所や都道府県の担当部署に確認してから進めましょう。

参考文献

この記事を書いた人:

精密農業編集部

運営:
株式会社ARIJICS(監修:有路友一) 
https://arijics.com/company/founder/

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

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