コメの食味を上げる対策は施肥だけではない——玄米タンパク質含有率7.0%以下を目標に、穂肥診断・水管理・収穫タイミングを一体で設計する

コメの食味を向上させたい生産者が最初に考えるのは「どの肥料を使うか」か「品種を変えるべきか」だ。しかし食味は施肥だけで決まるものではなく、水管理と収穫タイミングが大きく左右する要因として機能する。どんな良食味品種を使っても、早期落水で粒張りが不十分になれば食味は落ちる。適切な穂肥量を設計しても、早刈りで青未熟粒が混入すれば食味評価は急落する。

愛媛県農林水産研究所が特A獲得を目標に積み上げた実証データは、食味を決める管理可能要因の中で「玄米タンパク質含有率7.0%(水分14.5%補正)以下」が核心的な目標値であることを明確に示している。そしてこの数値を達成するための手段は、穂肥診断・登熟期の水管理・収穫タイミングの3つが一体で機能することで初めて効果を発揮する。

この記事では、愛媛県農林水産研究所の実証データとJA全農のみんなの農業広場の栽培情報をもとに、食味が決まるメカニズムから逆算した栽培管理の設計方法を示す。特に「施肥だけで食味は上がらない」という視点を中心に、水管理と収穫タイミングの具体的な数値目標を整理する。

目次

食味を決める評価項目と管理可能な要因

日本穀物検定協会が行う食味ランキングは、「外観・香り・味・粘り・硬さ・総合評価」の6項目で評価する。このうち農家が栽培管理で最も影響を与えやすい要因が「玄米タンパク質含有率」だ。

食味の計測では、アミロース・タンパク質・水分・脂肪酸度(玄米のみ)の4成分を測定する食味計が使われることが多いが、タンパク質含有率が最も食味の指標として注目されている理由は、施肥管理という人為的操作と直接対応しているからだ。

アミロース含有率は登熟期の気温に左右されるため、農家が自由に操作できる余地は限られている。一方でタンパク質含有率は、施肥量・水管理・収穫タイミングという栽培管理の選択で大きく変動する。

玄米タンパク質含有率7.0%以下が食味の分岐点

愛媛県農林水産研究所の実証データ(愛媛県産ヒノヒカリおよびにこまるの現地調査)では、玄米タンパク質含有率が7.0%(水分14.5%補正)を超えると食味評価が明確に低下することが確認されている。グラフ上では、6.6%の基準米と比較して7.1%では食味評価が下振れする傾向が示されており、7.0%が食味維持の実質的な上限として機能している。

タンパク質が炊飯時の吸水を妨げるメカニズム

タンパク質含有率が高いと、デンプン粒の周囲にタンパク質が蓄積し、炊飯時の吸水を妨げる。吸水が均一に進まないと、デンプンが糊化(でんぷんに熱湯を加えた際に糊状になること)する過程でムラが生じ、炊飯米の食感が不均一になる。食味官能試験では「硬さ」と「粘り」の評価に影響する。

一方、タンパク質含有率が5.5〜6%以下になると食味評価が下がることも確認されている(秋田県農業試験場の知見)。過度な低タンパク化を狙って施肥を極端に抑制すると、登熟期の窒素不足で外観品質が低下するリスクがある。目標値は「7.0%以下、5.5%以上」の範囲が実践的な目安だ。

「デンプンを増やしてタンパクを薄める」という考え方

愛媛県農林水産研究所のデータは、食味向上のアプローチとして2つの方向性を示している。

一つ目は「玄米中のタンパク質を少なくする」こと。これは窒素の多施用を控えることで達成できる。

二つ目は「デンプンを多く蓄積させ、タンパク質の占める割合を相対的に低くする」こと。これは登熟後半の生育を良好にし、収穫間際まで玄米を充実させて粒厚を厚くすることで達成できる。

両者は相反する側面がある。穂肥を多く施用すれば粒厚は厚くなりデンプン量は増えるが、タンパク質の絶対量も増える。粒厚を厚くしながらタンパク質含有率を7.0%以下に抑えるには、「基肥の多施用を控え、穂肥は穂肥診断で決定した量に限定する」総合的な管理が必要だ。

施肥管理——穂肥前のSPAD値診断で決める

基肥の増加でタンパクが上昇する

愛媛県農林水産研究所の施肥試験(品種:にこまる)では、基肥量の増加と穂肥量の増加の両方で玄米タンパク質含有率が上昇することが確認されている。基肥2→4→6(N kg/10a)で玄米タンパクが段階的に上昇し、穂肥についても同様の傾向が確認されている。収量(kg/a)は穂肥増加によって向上するが、玄米タンパクも連動して上昇するため、収量確保と食味向上のバランスを取る施肥設計が必要だ。

穂肥量はSPAD値(葉緑素計)で診断して決定する

穂肥施用量は、穂肥前の葉色(SPAD値)を計測して決定することが実践的なアプローチだ。愛媛県農林水産研究所のデータでは以下の基準が示されている。

SPAD値27の場合:穂肥5N kg/10aまで施用可能(7.0%以下を維持)
SPAD値29の場合:穂肥4N kg/10aまでが限度
SPAD値26以上の場合:穂肥6N kg/10aの施用は玄米タンパク質含有率7.0%を超えるリスクがある

つまり、葉色(SPAD値)が高い(窒素が十分ある)圃場では穂肥を抑制し、葉色が低い圃場では穂肥を増やす。感覚ではなく計測値で施肥量を決定することが、タンパク質含有率の管理精度を上げる。

なお、穂肥の過度な削減は高温障害(白未熟粒)を受けやすくする。登熟期に稲体が弱くなった状態で高温にさらされると、デンプン蓄積が不良になり白未熟粒が発生する。「食味を上げたい→穂肥を全カット」という単純な発想は逆効果になるリスクがある。

水管理——早期落水が食味を直接下げる

登熟期の間断かん水(湿潤気味)で粒厚を確保する

愛媛県農林水産研究所の水管理試験(品種:こいごころ)では、登熟期間の水管理と品質の関係が明確に示されている。

登熟期間の水管理を「乾燥(入水なし)」「間断かん水・乾燥寄り(8日間隔)」「間断かん水・湿潤寄り(4日間隔)」で比較した結果、湿潤気味に管理した区が最も粒厚が厚く、玄米タンパク質含有率も最も低かった。良質粒の割合も湿潤区が最も高く、未熟粒の割合が最も少なかった。

この結果が示すのは、登熟期に水田を過度に乾燥させると粒張りが不十分になり、食味に不利なタンパク質含有率の上昇につながるということだ。水を切ることで倒伏防止や作業性の改善を図りたい場合も、登熟期の間断かん水は維持することが食味確保の基本だ。

また中干しについては「適正な中干し(有り)」の区で穂数・1穂籾数・籾数のバランスが改善し、登熟歩合と2.1mm以上の大粒の割合が高くなることが確認されている。過剰な中干しは避けつつ、適度な中干しで籾数を制限することが食味向上につながる。

落水は収穫5日前が基本——早期落水は粒厚を薄くする

愛媛県農林水産研究所の落水時期試験(品種:こいごころ)の結果は明確だ。「収穫5日前落水」と「収穫20日前の早期落水」を比較すると、早期落水区では粒厚が薄い比率が高く、2.1mm以上の大粒の割合が明確に低下した。

早期落水はほ場の乾燥を早めて機械作業の入りやすさを改善するメリットがあるが、食味の観点からは粒張りを不十分にする大きなリスクがある。食味向上を目標とするなら、収穫5日前程度の落水を基本とし、作業スケジュールを落水タイミングから逆算して立てることが現場的な対応だ。

移植時期——登熟温度を設計する

登熟期の気温は農家が直接操作できない要因だが、移植時期の選択によって登熟期が高温・低温のどちらに当たるかをある程度コントロールできる。愛媛県農林水産研究所のデータでは以下の指針が示されている。

ヒノヒカリ(高温障害が発生しやすい品種):登熟前半の高温を避けるため6月中旬〜下旬植え

にこまる(登熟が遅くなる品種):登熟後半の低温を避けるため6月上中旬植え

白未熟粒(心白粒・乳白粒等)は、登熟期間の高温や日照不足によってデンプンの蓄積が不良になることで発生する。白未熟粒が混入すると炊飯時の吸水が不安定になり食味が低下する。

一方で登熟後期に低温が来ると青未熟粒が混入し、粒厚が薄くなりタンパク質含有率が高くなる。移植時期の設計は、品種の特性と地域の気象パターンを照らし合わせて決める必要がある。

JA全農みんなの農業広場の良食味米栽培情報では「出穂後30日間の平均気温が23〜25℃で食味が良くなる」とされている。この気温帯に登熟期が当たるよう移植時期を逆算する視点が重要だ。

収穫タイミング——早刈りが青未熟粒を増やす

愛媛県農林水産研究所の収穫時期試験(品種:にこまる)では、最長稈黄変籾率75%(10月7日収穫)と90%(10月11日収穫)・94%(10月14日)・98%(10月18日)を比較している。75%時収穫(早刈り)の区では青未熟粒率が10%を超え、玄米タンパク質含有率も7.0%に近い値を示した。適期の90〜94%収穫区では青未熟粒率が大幅に低下し、タンパク質含有率も6.2〜6.4%程度に収まっている。

青未熟粒のタンパク質含有率は9.1%と高く、完全粒(6.6%)と比べて大きくかけ離れる。青未熟粒を30%混入させた米のタンパク質含有率は7.8%、50%では8.3%まで上昇することも実測で確認されている(愛媛県農林水産研究所データ)。

ヒノヒカリは最長稈黄変籾率85%時から、にこまるは90%時から収穫を開始することが食味確保の目安だ。ただし刈り遅れると胴割れが発生し、精米時に割れ米が増加するため、適期を超えた長期間の放置も品質低下につながる。

土づくり——ケイ酸と腐植が登熟を支える

愛媛県農林水産研究所のデータでは、県内の水田でケイ酸と腐植が不足傾向にあることが指摘されている。ケイ酸は稲体を丈夫にし、光合成能力の向上・倒伏防止・いもち病耐性強化に効果がある。腐植は養分の供給と保肥力を高め、根の伸長を促す。

どちらも登熟後半の稲の活力を最後まで保つために不可欠な要素だ。食味向上のための穂肥診断や水管理は、土壌の保肥力と稲の根活力が維持されていることを前提として機能する。土づくりを疎かにした状態での施肥量の調整は、食味向上の限界が低くなる。

水の質という視点:MOLECULE水処理技術

ここまでの管理要因(施肥・水管理・収穫タイミング・土づくり)は「どれだけの水を、いつ与えるか」という量・タイミングの管理だ。もう一つの視点として、水そのものの性質がある。

株式会社ARIJICSが取り組むMOLECULE(モレクル)水処理技術は、水分子の構造に働きかけることで土壌や作物への水の浸透・利用効率を変える試みだ。登熟期の水管理が食味に直接影響する稲作において、水の浸透性と養分吸収の効率が変化する可能性は、食味形成と関連する要因として注目される。

まとめ:食味向上は施肥・水管理・収穫の3管理が一体で機能する

食味を上げる目標は「玄米タンパク質含有率7.0%以下(水分14.5%補正)」という数値に集約される。この数値を達成するための管理は以下の3つが一体で機能する。

施肥管理は穂肥前のSPAD値を計測し、葉色に応じた量を設定する。感覚ではなく計測値で施肥量を決める習慣が、タンパク質含有率の管理精度を上げる最も確実な方法だ。

水管理は登熟期の間断かん水(湿潤気味)を維持し、落水は収穫5日前を基本とする。早期落水は粒厚を薄くし、食味の直接的な低下要因になる。

収穫タイミングはヒノヒカリで最長稈黄変籾率85%、にこまるで90%を収穫開始の目安とし、青未熟粒の混入を防ぐ。早刈りは青未熟粒のタンパク質(9.1%)を大量に混入させ、食味評価を急落させる。

この3つに移植時期の設計(登熟温度の最適化)と土づくり(ケイ酸・腐植の確保)を加えた総合管理が、連年「特A」水準の食味を目指す際の基本設計だ。

食味向上に取り組む際の実践的な順序として、まず現在の自圃場の玄米タンパク質含有率を計測することから始めることを勧める。食味計や農協・農業試験場への分析依頼で玄米タンパク質含有率が確認できれば、どの管理要因に問題があるかの仮説が立てやすい。7.0%を超えている場合は穂肥量・落水時期・収穫タイミングのうちどれが問題かを絞り込む。7.0%以下なのに食味評価が低い場合は、品種ポテンシャルや登熟温度(移植時期の設計)の見直しが優先される。

「肥料を変える」より先にデータを取ることが、食味向上への最短ルートだ。感覚で行っていた管理を計測値に置き換えることで、翌年の管理改善の根拠が生まれる。

参考文献

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

リンク

https://arijics.com/molecule
https://arijics.com/info

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