土壌ECが高い原因と下げ方——かん水・クリーニングクロップ・施肥設計の効果量を数値で整理する

「ソルガムを作付けれする」「多めにかん水する」——土壌ECを下げる方法は知っている。しかし実際にどれくらいのかん水量でどれくらいEC値が下がるのか、クリーニングクロップを1作終えてもECが下がっていないのはなぜか、といった疑問に答えてくれる情報は少ない。除塩は「方法の名称」を知るだけでは足りず、自分の圃場の条件(排水性・現在のEC値・作期スケジュール)にどの方法がどれだけ効くかを判断できなければ時間と労力が無駄になる。本記事では洗い流し・クリーニングクロップ・施肥設計見直しの3手段について、それぞれの効果量と有効条件・失敗しやすいパターンを具体的に整理する。

目次

ECが高い施設で生育中に緊急対応が必要なとき

定植後に高ECによる症状(葉縁の焼け・昼萎れ・根の茶変)が現れた場合、洗い流しや深耕は根を傷めるため実施できない。作期中の緊急対応は以下の3手順に絞る。

  • かん水量を増やして希釈する:ドリップ灌漑では1回のかん水量を通常の1.5〜2倍に増やし、根域周辺の塩類イオンを希釈する。施肥液ではなく清水かん水に切り替えることで急速な希釈効果が得られる。
  • 追肥を即停止する:EC上昇中はすべての追肥を停止する。液肥・固形肥料の区別なく、根域にイオンを追加する操作を一旦完全に止めることが優先だ。
  • 換気管理で地温上昇を抑える:ハウス内温度が高いほど蒸散量が増し、塩類が地表に毛管上昇しやすくなる。換気を強めて日中の気温と地温を下げることで、塩類の表層集積速度を落とす。

作期中の高EC対応は「これ以上悪化させない」ことが目標だ。根本的な除塩(洗い流し・緑肥)は次の作付け間に行う。

施設野菜別の適正EC目安と障害発生の閾値

作物適正EC目安(1:5希釈法)障害が出やすいEC備考
トマト0.2〜0.5 dS/m1.0 dS/m以上高糖度栽培では意図的にECを上げるケースあり
キュウリ0.2〜0.5 dS/m0.8 dS/m以上塩類感受性がやや高い
ナス0.2〜0.6 dS/m1.0 dS/m以上高温期は特に注意
ピーマン0.2〜0.5 dS/m0.8 dS/m以上
イチゴ0.1〜0.3 dS/m0.6 dS/m以上特に感受性が高い
ホウレンソウ0.2〜0.4 dS/m0.7 dS/m以上

(数値は推定・要確認。測定方法と土壌の種類によって異なる)

まず目標値を決める——作物別EC適正値と対策開始の判断基準

除塩が必要なEC値と作物別の限界値

除塩に着手する前に「どこまで下げれば十分か」を決める。目標のないまま除塩を続けると過剰な労力と時間がかかり、次作の適期を逃す。

野菜・果樹・花きで「除塩が必要な状態」とされる目安は土壌ECが0.5mS/cm以上(塩素濃度50mg/100g以上に相当)とされており(熊本県農林水産部生産局)、一般的な施設野菜の適正ECである0.4〜1.0mS/cmの下限に近い。施設栽培での塩類集積では、土壌中の塩素イオン(Cl⁻)と硝酸イオン(NO3⁻)・カリウムイオン(K⁺)などが混在しているが、ECはこれらすべてのイオン量を合算した値として現れる。

作物別の限界値の目安を確認しておく。イチゴやメロンは耐塩性が弱く、EC 0.6〜0.7mS/cm程度が障害発生の目安となる。トマト・ピーマン・ナスは中程度で、EC 0.8〜1.0mS/cmを超えると品質への影響が現れやすい。アスパラガス・ダイコン・ネギ・ハクサイは比較的耐性が強い(佐賀県専門技術員室資料による)。

目標値を「次作の適正EC範囲の下限」に設定し、現在値とのギャップから必要な除塩量を計算する。EC値が目標値の2倍以上ある場合は、1つの方法だけでなく複数の手段を組み合わせる計画が必要だ。

作付け前・作期中の3点測定サイクル

土壌ECの測定は作付け前だけでなく、作期中の定点観測が除塩計画の精度を高める。ハウス内では被覆開始後の毛管上昇によって短期間でECが上昇するため、被覆前・被覆後1か月・作期中盤の3点で測定する体制が理想的だ。ECメーターは安価なものでも簡易測定が可能だが、作付け前の詳細診断はJAや農業改良普及センターの土壌分析(成分別の値が出る分析)を年1回以上組み合わせることを強く勧める。EC値単独では「どのイオンが多いか」がわからず、対策の方向性が絞れないためだ。

洗い流しの定量データ——かん水100mmで塩素の何%を除去できるか

かん水100mmで塩素の85%が除去される

洗い流し(水による除塩)は最も即効性のある方法だ。ただし「多くかん水する」という漠然とした指示では実際の計画が立てられない。

佐賀県のデータでは、1日50mmのかん水(水道水)で1日あたり約30mg/100gの塩素を洗い流せる。累積100mmのかん水で塩素の85%、200mmで95%が除去できるとされている(熊本県農林水産部生産局「高塩分濃度土壌の除塩対策」)。この数値は排水性が確保された圃場で耕起した土壌を対象としたものだ。

10a(1反)あたりで換算すると、かん水深100mmは100tの水量に相当する。除塩用水の要件はEC 0.3mS/cm以下の水とされており、硬水や汚染水を使うと新たなイオンを持ち込んで逆効果になる。地下水を除塩用水として使う場合は、事前に水質(EC値)を確認することが前提だ。

排水性の確保と洗い流しの実施手順

重要な条件は「排水性の確保」だ。縦浸透(水が垂直方向に浸透する速度)が低い粘土質土壌では、水が圃場表面に溜まって横流れし、土壌中の塩類を洗い流す効率が著しく落ちる。深耕や心土破砕(サブソイラー・弾丸暗渠)による縦浸透の改善が洗い流し効果を最大化する前提条件になる。排水性を改善せずに多量のかん水だけを繰り返しても、時間と水の無駄になる。

洗い流しの実施手順は、まず耕起して土塊を乾燥させた後に実施することで浸透効率が高まる。湿潤状態のまま表面に水をかけると、水が土塊の表面だけを流れて内部に浸透しにくい。耕起後に土の表面が白く乾いた状態になってから開始し、全面が均一に湿るまで時間をかけて流す。施設内での実施は冬期の除覆(フィルムを外して雨に当てる)と組み合わせると水量の確保が容易になる。

洗い流し後に「戻る」理由——リバウンドを防ぐための管理

Cl⁻は洗い流しやすく、Na⁺は土壌に残留する

洗い流しを実施してECが下がっても、ハウスの天井フィルムを被覆した後や夏期高温時に再びEC値が上昇することがある。これは洗い流しで下層に押し出された塩類が、施設内の温度上昇と蒸発によって毛管上昇で表層に戻ってくる現象だ。

塩素イオン(Cl⁻)は陰イオンなので水に流れやすく、適切な洗い流しで除去しやすい。しかしナトリウムイオン(Na⁺)は土壌粒子の陽イオン交換サイトに吸着するため除去に時間がかかる。ナトリウムが蓄積した土壌では粘土化が進み、排水性が悪化する悪循環が起きる。このような土壌ではEC値を下げても翌シーズンに塩類が表層へ再蓄積しやすく、一度の除塩では解決しない。

リバウンドを防ぐ灌水管理と層別EC測定

再蓄積を防ぐためには、除塩後もフィルム展張後の灌水管理を「少量頻回」から「まとまった量を定期的に」施用する方針に切り替え、表層への毛管上昇を抑制する。また元肥を少量に抑えて追肥で補う施肥体系は、一度に多量のイオンを土壌に加えないため塩類集積のピークを平準化する効果がある。

「リバウンドが起きている」かどうかは表層と下層のECの差で判断できる。表層(0〜10cm)のECが下層(20〜30cm)より高く、かつ作期が進むほどその差が拡大している場合は毛管上昇による再蓄積が起きているサインだ。逆に下層ECが高い場合は、洗い流しが不足して塩類が下層に残存しており、次の乾燥期に再び上昇するリスクがある。層別の測定を習慣化することで、リバウンドの発生を早期に把握できる。被覆開始から30〜60日後に再測定を行い、前回値との比較でリバウンドの有無を確認する管理サイクルが実効的だ。

クリーニングクロップの実際の効果と使える条件

クリーニングクロップによる除塩は、土壌中の塩類を作物体内に吸収・蓄積させて圃場外に持ち出す方法だ。洗い流しと異なり、圃場外への排水が不要なため排水性の低い圃場でも実施できる利点がある。

ソルガムの除塩効果と残渣の搬出徹底

ソルガム(ソルゴー)は耐塩性が強く、施設内での除塩作物として最もよく使われる。1作あたりの窒素吸収量は生産量に依存するが、旺盛に生育した場合には土壌の硝酸態窒素を大量に取り込む。収穫物は必ず圃場外へ搬出する。残渣を土壌に鋤き込むと吸収した成分が圃場に戻るため除塩効果がゼロになる点に注意する。

ただしクリーニングクロップは補助的な方法だと位置づけるべきだ。ECが2.0mS/cmを超えるような高塩濃度では、ソルガムでも発芽・生育が安定しないため、まず洗い流しでEC値を下げてからクリーニングクロップを作付けするという順序が実際的だ。ECが1.5mS/cm以下に下がった段階でクリーニングクロップを作付けし、残存する塩類を吸収させた後に次作の本作物に移行するのが標準的な手順だ(推定・要確認)。

NaClが原因のときはクリーニングクロップだけでは対応できない

クリーニングクロップが有効なのは「施肥由来の窒素やカリウムの蓄積」が主なEC上昇の原因である場合だ。NaClが主原因の場合(海水侵入・特殊な水質の灌水水)は、Cl除去に洗い流し、Na除去に石灰質資材(石膏)の施用が必要で、クリーニングクロップだけでは対応が不十分だ。

施設内でソルガムを1作完了した後の土壌EC変化は圃場によって差が大きい。旺盛に生育して収穫・搬出まで完了した場合でも、EC値が0.3〜0.5mS/cm程度しか低下しないことも多い(推定・要確認)。クリーニングクロップは補助手段と位置づけ、単独での完全除塩を期待しないことが現実的だ。洗い流しで大幅に下げ、最後のEC低下にクリーニングクロップを使うという役割分担が効果的だ。

深耕が逆効果になるケースと正しい使い方

深耕は表層に集積した高EC土壌と下層の低EC土壌を混合することで、表層のEC値を薄める方法だ。下層のECが低い圃場では有効だが、使い方を誤ると逆効果になる。

深耕前に必ず下層ECを測定する

確認すべきことは「下層のEC値が表層より低いかどうか」だ。長期間の施設栽培では毛管上昇の繰り返しによって表層に塩類が集中するため、下層のECが低いケースが多い。しかし、排水不良で下層にも塩類が蓄積している圃場では、深耕によって高EC土壌の面積が広がるだけで、改善にならない。深耕前に20〜30cm深さと40〜50cm深さの土壌ECを別々に測定して、下層の値が表層より低いことを確認することが前提だ。

心土破砕と洗い流しを組み合わせて効率を上げる

深耕を行う場合は心土破砕を兼ねて縦浸透性の改善も同時に行うと、その後の洗い流し効率が高まる。サブソイラーやエアーインジェクターによる心土破砕は、固結した下層の通気性・排水性を改善する。深耕後に多量かん水を実施すると、混合された土壌全体から塩類を効率的に洗い流せる。

深耕の実施は作期と作期の間(作付け前の土壌改良期)に行う。作期中の深耕は根を傷つけ、急激な土壌環境変化による生育障害を引き起こすため避ける。深耕後は土壌が安定するまで数日間かん水をして土を落ち着かせてから次の作業に移行する。天地返し(表土と下層土を完全に入れ替える方法)は深耕より大規模な土壌改善手段で、長期間EC問題が改善しない圃場での選択肢になるが、実施後の土壌微生物相の変化や有機物分解の遅れによる一時的な生育不良に注意が必要だ。

残存成分の少ない肥料への切り替え——EC再上昇を防ぐ施肥設計

洗い流しとクリーニングクロップでECを下げても、施肥設計を変えなければ次の作期に再び蓄積する。肥料そのものが持つ「残存成分」の問題も施肥設計見直しに含める必要がある。

硫安と硝安の残存成分の違い

同じ窒素成分を供給する肥料でも、副成分として残るイオンの量に差がある。硫安(硫酸アンモニウム)はアンモニア態窒素を含む有効な肥料だが、硫酸イオン(SO4²⁻)が副成分として土壌に残り、ECを上昇させる。一方、硝安(硝酸アンモニウム)は硝酸態窒素とアンモニア態窒素の両方が植物に利用され、余剰成分が残りにくい。肥料成分以外のイオンを土壌に持ち込まないという観点から、「残存成分の少ない肥料」を意識的に選ぶことがEC管理の長期的な改善につながる(アグリウェブ「施設栽培の土壌管理」)。

追肥を複数回に分割する施肥体系も有効だ。1回あたりの施肥量を減らして回数を増やすと、ピーク時の土壌EC上昇幅が小さくなる。液肥は濃度を自在に調整できるため、作物の需要に合わせてイオン供給量を精密にコントロールできる。

差し引き施肥:残存分を次作の基肥から引く

施肥計画の出発点は土壌診断での残存量確認だ。前作で使いきれなかった肥料成分が残っている場合、それを考慮せずに次作でも標準量を施用すると蓄積が加速する。作付け前の土壌診断で残存成分を把握し、標準施肥量から残存分を差し引いた量を基肥とする「差し引き施肥」が施設栽培での基本的な考え方だ。JAや農業改良普及センターの施肥基準を参考に、地域の一次ソースをもとに施肥計画を立てる。

MOLECULEと洗い流し効率——表面張力の低下が縦浸透に与える影響

洗い流しによる除塩効率は、灌水した水が土壌粒子間の細孔へ浸透する速度に依存する。水の表面張力が高いと細孔への浸入が遅く、表層を流れてしまう割合が増える。

MOLECULE(モレクル)水処理装置(株式会社ARIJICS)の処理水は表面張力が72.8mN/mから69.6mN/mへ低下するデータが測定されている。表面張力の低下は土壌毛管への浸透性向上につながる物理的な変化だ。除塩用洗い流しにMOLECULE処理水を使用した場合の浸透効率・除塩量への影響については、現在圃場での実証実験が進行中だ(MOLECULE実証実験データ)。

土壌ECを下げるための基本的な対策(排水性の確保・十分なかん水量・クリーニングクロップ・施肥設計見直し)を実施したうえで、除塩効率のさらなる改善を検討する段階でMOLECULEを補完的なアプローチとして参照することができる。除塩は1シーズンで完了するものではない。現在値・目標値・方法・スケジュールを毎作期確認しながら、診断と対策のサイクルを着実に継続することが、土壌ECを長期的かつ安定的に管理するための実態的な手順だ。

参考文献

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

リンク

https://arijics.com/molecule
https://arijics.com/info

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