トマトの着色不良は「積算温度不足」か「高温型リコペン阻害」かを先に診断してから対策を選ぶ

夏場にトマトが赤くならない、肩の部分だけ黄色く残る、全体的にオレンジ色で止まってしまう——こうした着色不良の問題は、同じ「色がつかない」症状でも、原因によって対策がまったく異なる。にもかかわらず、「とにかく遮光すれば解決する」「肥料を変えれば改善する」という対策が先行し、原因の診断なしに資材費と手間をかけた結果、効果が限定的になるケースが現場では多い。

着色不良には2種類ある。「積算温度の不足による未熟収穫」と「果実表面の高温によるリコペン合成阻害」だ。前者は収穫タイミングの問題であり、後者は栽培環境の問題だ。この2つを先に区別してから対策を選ばないと、遮光資材を設置しても色がつかなかったり、収穫を待っても改善しなかったりという事態が繰り返される。

農研機構 野菜茶業研究所(鈴木克己ら、野菜茶業研究所研究報告第12号、2013年)の研究では、直射日光が当たる果実の表面温度と着色不良果率の関係が実験的に明らかにされている。この研究をもとに、着色不良の診断と対策選択の考え方を整理する。

目次

着色不良の2種類を先に区別する

積算温度不足型:成熟していないだけで本来は正常

トマトの果実が着色するには、開花からの積算温度が必要だ。一般的な品種では開花から収穫まで約1,100〜1,200℃の積算温度が目安(品種により差あり)とされており、この積算温度に達していない状態で収穫した場合は単純に「まだ成熟していない未熟果」だ。

積算温度不足型の着色不良は、全体的にまんべんなく色がついていない・萼の付け根まで均一に緑〜黄緑が残る・切った断面が白っぽいという特徴がある。この場合に遮光を強化しても問題の解決にはならない。必要なのは収穫を待つか、適切な積算温度管理だ。

開花日の記録をつけていれば積算温度を推算できる。簡易的には「開花後の日平均気温×経過日数」で積算温度を概算し、品種の目安値と比較する。たとえば平均気温が22℃の日が50日続いた場合、積算温度は1,100℃となり、大果品種の収穫適期に近づく計算になる。開花日記録がない場合は、萼の状態(萼が反り返り、軟化し始めているか)・果実の軟化の進み具合・果柄の変色(緑→黄緑)を複合して成熟度を判断する。これらのサインが現れていない段階で収穫した場合は積算温度不足として扱い、ハウス内での追熟管理(20℃前後)に切り替えることで着色改善が期待できる。

高温型リコペン阻害:色素の合成そのものが止まっている

問題が複雑になるのはこちらだ。「積算温度は十分に経過しているのに、肩の部分だけ黄色く残る」または「オレンジ色で止まって赤くならない」というケースは、リコペン(リコピン)の合成が高温によって阻害されていることが主因だ。

農研機構の研究(鈴木ら, 2013)によれば、トマト果実中の赤色色素であるリコペンの生合成は12℃以下および32℃以上で抑制される。適温は20〜25℃とされており、この範囲を外れると果実が成熟過程にあっても赤い色素が蓄積されなくなる。

高温型の着色不良は、果実の上部(肩の部分)が黄色または黄緑に残り、下部や日陰部位は正常に着色するという「不均一な着色」が特徴だ。この非対称性が「積算温度不足型」との重要な違いだ。

現場での診断は、同じ果房の中で「日光が当たっていた側」と「葉の陰になっていた側」の着色を比較することで確認できる。日光が当たっていた側だけが黄色く残っていれば高温型と判断できる。複数の果房で同じパターンが見られる場合は、その株や栽培区全体で果実表面温度が32℃を超えるケースが繰り返されていることを意味する。気温計やデータロガーを設置している圃場でも、果実表面温度は別途サーモガン(放射温度計)で実測しないと実態がわからない。晴天の午前10時〜午後2時に直射日光が当たる果実の表面をサーモガンで測定することで、リコペン阻害が起きている温度帯かどうかを直接確認できる。

気温ではなく「果実表面温度」が問題——最大9℃の乖離

高温型リコペン阻害の管理で最もよく起きる判断ミスが、「今日の気温は28℃だから大丈夫」という気温基準の管理だ。

農研機構の実験(鈴木ら, 2013)では、熱画像装置を使って晴天日11時頃の果実表面温度を測定したところ、直射日光が当たっている果実の表面温度は約35℃であり、陰になっている果実より4℃程度高温になっていた。また先行研究(Pék et al., 2011)では、群葉で被覆された果実と比べて直射日光が当たった果実では表面温度が7〜9.3℃高くなり、内部のリコペン含量が有意に低下したことが報告されている。

つまり、気温が28℃であっても、直射日光が当たる果実の表面は35〜37℃に達している可能性がある。リコペン合成阻害の閾値(32℃)を超えているのは「高温日」ではなく、「晴れた日の午前中」であることが多い。施設栽培でも外気温が比較的穏やかな春先(4月〜5月)から着色不良が発生するのはこのためだ。

着色不良部位が黄色くなる理由——β-カロテンへの代替蓄積

農研機構の実験1(鈴木ら, 2013)では、着色不良果の部位ごとに色素含量を測定したところ、着色不良部位ではリコペン含量が低い一方で、β-カロテンおよびルテインが多いことが示された。

β-カロテンは橙黄色〜橙色の色素で、生成適温が30℃付近、生成温度帯が8〜36℃とされており、リコペンよりも高温での生成に耐性がある。直射日光で果実表面温度が32℃を超えた状況では、リコペン合成は停止するが、β-カロテンは引き続き蓄積される。これが着色不良部位が「黄色〜オレンジ色」に見える理由だ。

着色不良部位に硬さが残ることがある理由も、この色素プロファイルの変化と関係している。リコペン体(果実細胞内の構造体)の発達が抑制され、代わりにデンプン粒が多く観察されたことが同研究の組織学的観察で示されている。

遮光の選択:資材の種類と開始タイミング

遮光資材の選択

農研機構の実験では、果実をアルミホイルで完全被覆したところ通気が悪く一部で裂果に伴うカビが発生したため、遮光率50〜53%のポリエステルスパンボンド不織布製資材(実験ではユニチカ スーパーラブシートを使用)を使って果房被覆を行ったところ、日射量が多く着色不良果の発生が多い条件では着色不良果率が有意に低下した。

一方、無被覆での着色不良発生が少ない時期(3作目:夏季)では被覆の効果が小さかったことも示されており、「日射量が多い春〜初夏の高日射期」に遮光の効果が特に大きいことがわかる。

整枝・誘引を工夫して果実が自然な群葉の陰に入るようにすることも対策として有効だ。これは農作業の手間を増やさずに果実表面温度を下げる基本的なアプローチだ。

施設全体への遮光(ハウス外張り遮光ネット)はハウス内気温の上昇を抑える効果があるが、果実の直射日光を完全にカットするためには果房周辺の局所的な被覆が必要になるケースがある。ハウス全体の遮光では、日射量が下がることで光合成量が落ち収量に影響するリスクがある。そのため、局所被覆(果房ごとの不織布掛け)と整枝による葉の調整を組み合わせることが、収量と品質の両立につながる。被覆資材は着脱のしやすさも作業性に影響するため、果房への紐掛けや洗濯バサミを使った着脱が実用的だ。

開始タイミング:日差しが強くなってからでは遅い

タキイ種苗の実証研究(2025年2月公開、タキイ最前線WEB)では、飛騨高山産地で2020〜2022年に実施した試験として、遮光開始時期の違いと着色不良果率の関係を調査した。結果として、遮光開始が早いほど着色不良果率が低くなる傾向が確認されており、「日差しが強くなってから始める」では着色不良が既に発生した後の対応になる可能性がある。

果実の成熟ステージとしては、黄熟期前半から着色期にかけてが着色不良が発生しやすいステージであり、この期間に果実温度が33℃に96時間、または35℃に72時間さらされることで発生するとされている。遮光は「色が変わってから始める」のではなく、果実が黄熟期に入った段階で開始することが重要だ。

カリウム・土壌水分・EC——耕種的対策の組み合わせ

農研機構の研究(鈴木ら, 2013)では、土壌水分、EC、カリウム肥料などの耕種的要因も果実のリコペン含量に影響することが先行研究として引用されており(松添ら, 1998;Kubota et al., 2006;Taber et al., 2008)、これらを組み合わせた総合対策が有効とされている。

カリウム(K)は果実の成熟に関与し、カリウム肥料の施用でリコペン含量が増加することが示されている。成熟期にカリウムが不足すると着色が遅れる傾向がある。カリウム不足は砂質土壌や着果負担が多い場合に起きやすく、葉先の黄化・褐変(カリウム欠乏症状)と着色不良が同時に現れる場合は施肥管理を見直す必要がある。

土壌水分も関連する。成熟期の過剰灌水は糖度を下げると同時に果実内の化学的環境を変え、リコペン蓄積に影響する可能性がある。適切な水管理の基本はpF値による管理(pF2〜2.5を維持)だが、成熟後期には若干乾燥気味の管理が着色と糖度の双方に有利な場合がある。

品種の影響——高温着色性品種という選択肢

農研機構の実験4(鈴木ら, 2013)では、桃太郎ヨーク、ボンジョールノ、にたきこま、とまと中間母本農10号の4品種で着色不良果率を比較したところ、栽培環境が異なる場合の着色不良の発生傾向は品種によって異なることが示された。リコペン含量が遺伝的に多い品種(高リコペン性品種)は高温下でも相対的に色素蓄積量が多く、着色不良が起きにくい傾向がある。

今後の温暖化対応として、「高温着色性」を品種選択の軸の一つに加えることが有効な戦略だ。ただし同研究でも強調されているように、品種選択だけで着色不良を完全に防ぐことはできないため、遮光・耕種的対策との組み合わせが必要だ。

着色不良果の早期収穫と追熟も対策の一つとして有効だ。収穫後に20℃前後でリコペン蓄積に適した環境で追熟させることで、高温ダメージが軽微な果実なら着色が改善される。流通段階での対策として位置づけられるが、市場出荷のタイミング調整と組み合わせることが実用的だ。

水の質という視点:MOLECULE水処理技術

ここまで述べた着色不良対策は、温度管理・遮光・耕種的管理という「量とタイミング」のアプローチだ。もう一つの視点として、植物に供給する水そのものの性質がある。

株式会社ARIJICSが取り組むMOLECULE(モレクル)水処理技術は、水分子の構造に働きかけることで、土壌や作物への水の浸透・利用効率を変える試みだ。果実内での色素形成(リコペン合成)には細胞内の代謝環境が関わっており、水の浸透性や利用効率が変化することで、成熟期の果実内環境が変わる可能性がある。

まとめ:着色不良の診断フローと対策の選択

トマトの着色不良への対応は、まず2種類のうちどちらかを診断することから始まる。

収穫した果実が全体的に色づいていない・開花からの日数が短い場合は「積算温度不足」を疑い、収穫タイミングを見直す。肩部分だけが黄色く残る・果実の下部や陰の部分は赤くなっている・開花からの積算温度は十分という場合は「高温型リコペン阻害」を疑い、果実表面温度の管理に取り組む。

高温型への対策の優先順位は、①整枝・誘引で果実を群葉の陰に入れる、②黄熟期から遮光資材(遮光率50〜53%程度の不織布)で果房を被覆する、③カリウム施肥と適切な水管理を組み合わせる、④中長期的に高温着色性品種への転換を検討する——この順番で実行することが現実的な対策の組み立て方だ。

診断のために実施すること:サーモガンで晴天日の果実表面温度を実測し、32℃を超えるかどうかを確認する。同じ果房内で日光が当たる側と葉の陰の側を見比べ、着色の非対称性を確認する。開花日の記録と積算温度の概算から、成熟ステージが着色可能な段階にあるかを確認する。これら3つの確認を行うことで、「どちらの問題か」を圃場の中で判断できるようになる。着色不良の発生パターンを年間で記録しておくと、翌作での遮光開始タイミングや品種選択の判断精度が上がり、毎年の試行錯誤を減らすことができる。

参考文献

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

リンク

https://arijics.com/molecule
https://arijics.com/info

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