農業用ドローンによる除草剤の空中散布は、水田の中後期除草から森林の下刈り省力化まで、活用の場が広がっています。農薬散布そのものの手続きは他の薬剤と共通する部分が多い一方、除草剤ならではの製品選び、散布後の機体洗浄、周辺への配慮には固有の注意点があります。本記事では、除草剤の空中散布が活用される分野、使用可能な薬剤の確認方法、実施に必要な手続きの要点、機体メンテナンス、そして安全管理と国際的な規制動向までを整理します。
農業用ドローンによる除草剤の空中散布:メリットと活用分野
除草剤の空中散布は、地上からの散布が難しい条件でも効率的に作業できる点が最大の強みです。水田だけでなく、傾斜地の多い森林整備の現場でも活用が広がっており、それぞれの分野で異なるメリットが確認されています。農薬散布と共通する部分もありますが、除草剤ならではの活用場面や効果の現れ方には特徴があります。
傾斜地や圃場条件に左右されない効率化と作物を傷めない精密散布の特長
ドローンによる除草剤散布は、機体が上空から薬剤を散布するため、傾斜地やぬかるんだ圃場、足場の悪い山林など、人や地上走行機械が入りにくい条件でも作業効率が落ちにくいという特長があります。地上散布のように作業者が圃場や林内を歩き回る必要がないため、生育中の作物を踏みつけて傷める心配もありません。また、散布高度や飛行速度を調整することで、対象となる雑草にピンポイントで薬剤を届けやすく、周辺の作物や植栽木への影響を抑えた精密な散布がしやすい点も評価されています。
水田除草における優位性と森林整備(下刈り)での省力化・コスト削減効果
水田では、中後期の除草剤散布において、水管理と組み合わせた効率的な散布にドローンが活用されています。一方、森林整備の分野でも、下刈り作業の代替としてドローンによる林地除草剤散布が実証されています。茨城森林管理署が実施した実証試験では、3年生のスギ・ヒノキの植栽地を対象に、ドローンによる空中散布と人力刈払を比較した結果、1人1時間あたりの作業量が人力刈払の0.014ヘクタールに対し空中散布は0.168ヘクタールとなり、作業効率が約10倍に向上したことが報告されています。一方でヘクタールあたりの費用は人力刈払の約145,000円に対し空中散布が約540,000円と、コスト面では人力を上回る結果も示されており、散布面積の拡大による単価低減の可能性とあわせて、費用対効果を見極めることが導入の判断材料になります。
薬剤混在のリスク回避とピンポイント散布による減農薬・効率化の実現
ドローンによる除草剤散布では、散布区画ごとにタンクを入れ替えたり、飛行ルートを設定して特定の範囲だけに散布したりすることで、複数の薬剤が混ざり合うリスクを抑えながら作業を進めることができます。また、雑草の発生状況に応じて散布範囲を絞り込むピンポイント散布は、圃場や林地全体に一律で薬剤を撒く方法に比べて、結果的な薬剤使用量の抑制にもつながる可能性があります。こうした特性は、限られた労力で必要な範囲に必要な量だけ処理するという、除草剤散布の効率化と省力化の両立に寄与しています。
空中散布に使用可能な除草剤の確認方法と登録の仕組み
除草剤を無人航空機で散布するには、農薬取締法上、その薬剤が無人航空機による散布として登録されていることが前提になります。製品によって剤型や有効成分、対象雑草が異なるため、圃場や林地の状況に合った薬剤を選ぶことも重要です。ここでは登録の確認方法と、剤型ごとの代表的な製品、普及に向けた国の取組を整理します。
ドローンで使用可能な登録農薬の検索方法と農林水産省による適用拡大の取組
農林水産省は「ドローンで使用可能な農薬」を作物分類ごとに整理して公表しており、除草剤についても、使用したい薬剤がドローンによる散布方法として登録されているかを、この一覧または農薬ラベルの使用方法欄で個別に確認する必要があります。登録手続きや航空法上の飛行許可申請といった基本的な仕組みは、農薬の種類を問わず共通しており、これらの詳細な手続きの流れについては、無人航空機による農薬散布全般を扱った別記事で詳しく整理しています。本記事では、除草剤という薬剤そのものに焦点を当てて解説します。
空中散布に適した剤型(液剤・粒剤)と「バサグラン・エアー」等の製品事例
空中散布用の除草剤には、粒剤タイプと液剤タイプがあります。粒剤タイプの代表例であるBASFの「バサグラン・エアー1キロ粒剤」は、有効成分ベンタゾンナトリウム塩を33.0%含有する無人航空機による省力散布向けの新製剤で、カヤツリグサ科雑草や一年生広葉雑草、クログワイ・オモダカ・ホタルイなどの難防除多年生雑草に効果を示すとされています。液剤タイプの「バサグラン・スカイ液剤」は、同じくベンタゾンを44.0%含有し、ドローンや乗用管理機での少水量散布に適した製剤で、少水量散布には専用ノズルの使用が求められています。森林分野では、林地除草剤としてホドガヤアグロッテック社のザイトロンフレノック微粒剤が実証試験で使用された例が報告されています。剤型によって散布装置の設定や取り扱いが異なるため、使用する機体・散布装置に適合した製品を選ぶことが基本になります。
「農業用ドローンの普及計画」に基づくドローン対応薬剤の普及促進
農林水産省は「農業用ドローン普及計画」のもとで、ドローンに適した登録農薬を計画的に増やす取組を進めています。除草剤についても、現場でまだ対応薬剤が少ない作物・場面がある場合、産地とメーカーのマッチングや登録試験への支援を通じて、対応薬剤の選択肢を広げる仕組みが用意されています。使いたい除草剤がまだドローン用として登録されていない場合には、地域のJAや農薬指導部局を通じて、こうした仕組みの活用を相談する余地があります。
空中散布を実施するために必要な法的義務と手続き
無人航空機で除草剤を散布するには、航空法に基づく複数の手続きが必要です。手続きの詳細は他の農薬と共通する部分が多いため、ここでは要点を整理し、森林分野に特有の補助金活用にも触れます。水田と森林とでは提出先や関連制度が異なる場合もあるため、実施する現場に応じた確認が欠かせません。
航空法および農薬取締法に基づく飛行許可・承認と遵守事項
無人航空機による除草剤散布を行うには、機体の登録、国土交通大臣による飛行許可・承認、飛行計画の通報という航空法上の手続きに加え、農薬取締法に基づく登録内容(適用作物・希釈倍率・使用時期・総使用回数等)の遵守が求められます。これらの制度的な枠組みは薬剤の種類にかかわらず共通しており、機体登録の義務化やドローン情報基盤システム(DIPS)を用いた申請手順など、より詳しい内容は無人航空機による空中散布全般を扱った記事を参照してください。
事前許可申請から実績報告までのフローと森林補助金の活用
都道府県の農薬指導部局への計画届出や実績報告に加え、森林整備事業として下刈りの代替に除草剤の空中散布を行う場合は、造林補助にかかる各種手続きも関わってきます。森林整備事業では、植付・下刈り・間伐等の作業に対して都道府県から補助金が交付される仕組みがあり、近年はドローンによるオルソ画像や点群データを活用することで、現地確認作業の一部を省略できる運用も進められています。省力・低コスト再造林対策では、苗木運搬用ドローンなど省力化に資する資機材の導入が補助対象に含まれる制度もあり、除草剤の空中散布を含む省力化の取組を検討する際は、実施地域の森林管理署や都道府県の担当窓口に、活用できる補助制度を確認することが実務上の出発点になります。
ドローン運行体制の構築と適切な散布計画の策定
除草剤の空中散布を安全に実施するには、操縦者(オペレーター)に加えて、周辺の安全確認を行うナビゲーターや、薬剤補充・バッテリー交換を担う補助者など、複数人での運行体制を組むことが一般的です。森林整備の実証事例では、オペレーター1名、ナビゲーター1名、作業補助者3名という体制で作業が行われており、散布計画の策定にあたっては、散布区域の設定だけでなく、要員の役割分担や薬剤・バッテリーの運搬方法まで含めて事前に検討しておくことが求められます。
散布性能の維持と機体のメンテナンス・洗浄手順
除草剤を散布したドローンは、使用後の洗浄を怠ると、薬剤の固着による故障や、次回散布時の薬害につながるおそれがあります。特に除草剤は微量な残留でも他の作物に深刻な影響を与えることがあるため、洗浄の徹底は農薬散布以上に重要な意味を持ちます。ここでは散布後に求められるメンテナンスの基本を整理します。
配管、タンク、ポンプ、ノズル等の徹底した掃除と薬剤残留の防止
散布に使用したタンクやチューブ、ポンプ内には、使用後に水道水を通して薬液を洗い流し、薬剤が固着して破損の原因にならないようにする必要があります。ポンプ内に薬剤が残った状態で放置すると、ギア部分で薬剤が固まり、次回の作動不良や部品交換につながるおそれがあります。ノズルは薬剤やゴミが最もたまりやすい部分で、ゴムパッキンを含めて薬剤が付着した状態のまま長時間保管すると劣化し、滴下防止機能が正常に作動しなくなることもあるため、使用後は必ず洗浄することが求められます。BASFのバサグラン・スカイ液剤の使用上の注意でも、薬剤散布に使用した装置は十分に洗浄し、薬液タンクの洗浄廃液は安全な場所で処理するよう明記されており、除草剤に限らず空中散布後の洗浄は薬害防止の観点からも重要な工程です。
実施後の点検と適切な機体管理によるトラブル未然防止
散布終了後は、洗浄とあわせて機体各部の点検を行うことが望まれます。森林整備の実証事例では、植栽地際の枝を巻き込んだことによるプロペラの破損や、薬剤の湿気によるノズル詰まりといったトラブルが報告されており、こうした事例は、飛行前後の点検を徹底することの重要性を裏づけています。保管にあたっては、高温多湿や直射日光を避け、タンク・ポンプ・チューブ内を洗浄・乾燥させたうえで収納し、寒冷地では凍結による破損を防ぐため、内部の水を完全に抜いておくことも基本的な管理事項です。
安全性の確保とリスク管理:周囲への影響と飛散防止
除草剤は対象以外の植物にかかると深刻な薬害を及ぼすため、ドリフト対策と周辺への配慮は特に重要です。散布する薬剤の種類にかかわらず共通する注意点に加え、除草剤ならではのリスクにも目を向ける必要があります。ここでは安全管理上の留意点と、国際的な規制の動向を紹介します。
空中散布における一般的注意事項とドリフト(飛散)による二次被害の防止
除草剤の空中散布では、風向・風速を踏まえた散布区域の選定に加え、圃場や林地の端から一定の距離を確保してから散布を開始するといった対応が製品ラベルにも明記されています。バサグラン・エアーの使用上の注意では、散布装置のインペラの回転数を調整し、圃場の端から5メートル離れた位置から圃場内に散布することが求められており、水源池や飲料用水への飛散・流入を防ぐ配慮も必要とされています。周辺に除草剤の影響を受けやすい作物や植栽木がある場合は、無人航空機による散布そのものを見合わせる判断が必要になる場面もあります。
健康被害への懸念と人家・学校・公共施設近傍での安全配慮の重要性
除草剤に限らず、無人航空機による農薬散布は、地上散布に比べて操縦者が薬剤の飛散範囲から距離を保って作業できるため、作業者自身が薬剤に触れたり吸い込んだりするリスクを抑えやすいという側面があります。一方で、実施区域の周辺に住宅や学校、病院等の公共施設がある場合には、居住者や施設管理者への事前の情報提供、散布日時・使用薬剤の周知など、健康被害への懸念に配慮した対応が求められます。特に除草剤は微量でも周辺作物に薬害を及ぼす性質を持つため、住宅地に隣接する圃場や、風の影響を受けやすい立地では、通常以上に慎重な散布計画が必要です。
規制緩和の動向と欧州(EU)等の国際的な規制事例との対比
日本ではドローンによる農薬散布の普及に向けて、登録農薬の拡大や手続きの簡素化が進められている一方、欧州連合では持続的な農薬使用に関する指令(2009/128/EC、SUD指令)のもとで、空中散布は原則として制限されており、加盟国が厳格な条件を満たした場合に限り例外が認められる枠組みになっているとされています。ハンガリーは、ドローンによる散布を合法的に行うための体系的な仕組みを整備した国のひとつとされ、有効性試験の基準や環境への影響を評価するための飛散評価の手法が整えられていると報告されています。日本と欧州とでは、無人航空機による空中散布に対する基本的な規制の姿勢が異なる可能性があり、この点は今後、日本国内での規制のあり方を考えるうえでも参考になる視点といえます(推定・要確認)。
まとめ
除草剤の空中散布は、水田の中後期除草から森林の下刈り省力化まで、傾斜地や湿田など地上作業が難しい条件で特に効果を発揮する技術です。バサグラン・エアーやバサグラン・スカイ液剤のような専用製剤を、登録内容に沿って正しく選定し、散布後は配管・タンク・ポンプ・ノズルの洗浄を徹底することが、機体の性能維持と薬害防止の両面で欠かせません。飛行許可などの基本的な手続きは他の農薬と共通するため、除草剤に特有の論点としては、周辺作物への薬害リスクを踏まえたドリフト対策、住宅地・公共施設近傍での配慮、そして欧州の空中散布規制のような国際的な動向を視野に入れた慎重な運用が重要になります。
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