雑草茎葉散布と全面散布の違い:仕組みから水田での使い分けまで整理

「茎葉散布」と「全面散布」は、どちらも除草剤の使い方を指す言葉ですが、前者が薬剤の作用の仕方(すでに生えた雑草の葉や茎に効かせる方法)を表すのに対し、後者は薬剤を撒く範囲(圃場全体に均一に処理する方法)を表しており、両者は本来異なる軸の概念です。この違いを理解しないまま製品を選ぶと、期待した除草効果が得られないことがあります。本記事では、両者の定義の違いから、水田で実際に使われる複数の散布方法、除草剤の選択基準、正しい散布タイミング、安全に使うための注意点までを整理します。

目次

雑草茎葉散布と全面散布の定義と基本的な仕組み

「茎葉散布」と「全面散布」は言葉が似ているため混同されがちですが、指している内容は異なります。同じ意味だと思って製品を選ぶと、範囲や効果の現れ方について誤解が生じることがあります。ここではそれぞれの定義と、除草剤が雑草を枯らす仕組みの基本、茎葉処理と土壌処理という別の分類軸との関係を整理します。

茎葉処理型:生長した雑草の葉や茎に直接薬剤を付着させて枯らす仕組み

茎葉処理型(茎葉散布)は、すでに生長している雑草の葉や茎に薬剤を直接付着させ、そこから薬剤を吸収させて枯らす除草剤の作用方法です[出典1]。薬剤が雑草の体内に取り込まれたのち、光合成の阻害やアミノ酸の生合成阻害など、成分ごとに異なる仕組みで生長を止め、枯死に至らせます[出典1]。雑草も作物も基本的な生理機能は同じ植物であるため、茎葉処理剤は付着した対象を選ばず作用します。このため「茎葉散布」という言葉は、薬剤がどのように効くか(作用の仕方)を表す用語であり、後述する「全面散布」のような散布の範囲を表す用語とは、そもそも指している軸が異なります。

全面散布:圃場全体に均一に薬剤を散布する手法と「土壌・茎葉」それぞれの対象

全面散布とは、圃場の一部だけでなく、対象とする区域全体に薬剤を均一に行き渡らせる散布方法を指します。全面散布は土壌処理剤・茎葉処理剤のどちらでも行うことができ、たとえば水稲用の土壌処理剤である1キロ粒剤や顆粒水和剤は、本田内全面に均一に散布することが基本の使用方法として定められています[出典2]。つまり「全面散布」は散布する範囲の話であり、「土壌処理」か「茎葉処理」かという作用の仕方とは独立した概念です。この二つの軸(作用の仕方×散布範囲)を分けて理解することが、除草剤の使い分けを整理するうえでの出発点になります。

すでに生えている雑草を叩く「茎葉処理」と、発生を抑える「土壌処理」の使い分け

茎葉処理剤はすでに生えている雑草に散布して枯らすのに対し、土壌処理剤は土壌表面に処理層を形成し、これから発芽する雑草の発生を抑える仕組みです[出典1]。ラベルに「茎葉散布」と記載されているものは茎葉処理剤、「土壌散布」「全面土壌散布」と記載されているものは土壌処理剤にあたり、農薬取締法上の登録内容としてもこの使用方法の区分に沿って個別に審査・登録されています[出典4]。生育中の雑草には茎葉処理剤、これから生えてくる雑草には土壌処理剤という基本の使い分けを押さえたうえで、次章で扱う散布範囲・散布方法の違いを組み合わせて考えることになります。

水田除草における多様な散布方法と「全面・局所」の技術

水田で使われる除草剤には、剤型や薬剤の性質に応じて複数の散布方法が定められており、圃場全体を均一に処理する全面散布と、水田の周縁部や水口だけに処理する省力的な散布方法とに分かれます。どの方法を選ぶかによって、必要な水管理の条件も変わってきます。ここでは代表的な散布方法と、それぞれで求められる水管理を整理します。

湛水散布と原液湛水散布:水面に広げて全面を処理する基本的な水管理

湛水散布は、全面散布を前提とした1キロ粒剤や顆粒水和剤で用いられる方法です。散布時は田面が露出しないよう3〜5センチメートル程度に湛水し、本田内全面に均一に散布します[出典2]。顆粒水和剤の場合は専用ボトルを用い、ラベルに記載された「10a当り希釈液量」の水量で希釈・調整したうえで、同様に本田内全面に散布します[出典2]。原液湛水散布は、フロアブル剤や一部の乳剤に対して用いられる方法で、田面が露出しないよう5センチメートル程度の水深を確保したうえで、容器から薬剤を原液のまま本田内に散布します[出典2]。フロアブル剤や乳剤を希釈して散布すると、拡散性能の低下による除草効果不足や、薬液が水稲の茎葉部に付着して薬害が発生する危険があるため、原液のまま散布することが求められています[出典2]。

湛水周縁部散布や畦畔からの散布:省力化を目的とした部分・局所散布

湛水周縁部散布は、水田の周縁部だけに薬剤を散布し、水の動きを利用して水田内全面に薬剤を行き渡らせる方法で、少量拡散型粒剤や拡散性が付与された1キロ粒剤のうち、この使用方法での効果が実証された製品で使用できます[出典2]。散布時は5センチメートル程度の湛水状態とし、畦畔などを歩行しながら本田内に手振り散布します。圃場面積が30アール(幅30メートル×100メートル)以下の場合は圃場の周囲を一周するだけで済みますが、短辺側の畦畔が30メートルを超える圃場では、畦畔からの散布に加えて中央にも1条入って左右に散布することが求められています[出典2]。フロアブル剤や顆粒水和剤についても、同様に畦畔から直接手振り散布する方法が用いられており、いずれも圃場の中を歩き回る全面散布に比べて作業の省力化につながります[出典2]。

落水散布または極浅湛水散布:茎葉への付着を優先する散布条件とタイミング

落水散布(茎葉散布)は、圃場を落水状態またはごく浅い水状態にして、雑草の茎葉部が水面上に十分露出する条件で散布する方法です[出典2]。薬剤を一定量の水で希釈し、噴霧機器で雑草の茎葉部に薬液が十分付着するよう散布します。散布時の落水が不十分で雑草の茎葉部が水中に没した状態のまま散布すると、薬剤が茎葉に付着せず除草効果が劣るため、水管理の徹底が重要になります[出典2]。散布後は少なくとも7日間、そのままの状態を保ち、入水やかけ流しは行いません[出典2]。この方法は、湛水散布のように水中の有効成分を土壌表面に吸着させる仕組みとは異なり、薬剤を直接雑草の葉や茎に届けることを優先した散布条件といえます。

水口施用と無人航空機(ドローン)による広範囲の効率的全面散布

水口施用は、圃場に散布する薬剤の全量を、入水時の水口に一気に投入する方法です。原則として1筆あたり5〜6時間で水深5センチメートル程度の湛水が可能な水田で使用され、水口から勢いよく入水し、流入水の上に必要薬量の全量を一気に投入します。投入後は水口をしっかり止め、水尻からのオーバーフローがないよう注意する必要があります[出典2]。無人航空機による散布または滴下も、広い面積を対象とした全面散布の一手法です。散布日は田面が露出しないよう3〜5センチメートル程度に湛水しておくことが基本で、無人航空機による散布は農薬等を空中散布する特殊な作業であるため、農林水産省が定めるガイドラインへの留意に加え、航空法に基づく事前の許可・承認が必要になります[出典2]。

除草剤の選択基準:作用タイプ、選択性、および使用場所

散布範囲や散布方法だけでなく、除草剤そのものの性質を理解しておくことも、正しい使い分けには欠かせません。範囲の判断と成分の判断は別軸であり、両方を組み合わせて確認する必要があります。ここでは選択性・非選択性の違い、剤型による効果の違い、使用できる場所の区分を整理します。

作物を残して雑草だけを枯らす「選択性」と全てを枯らす「非選択性」の違い

雑草も作物も植物である以上、生理機能は基本的に同じであるため、除草剤の作用は本来、対象を区別しません。雑草と作物を区別せずに枯らす除草剤を非選択性除草剤といい、雑草と作物の間にあるわずかな感受性の違いを利用して、雑草だけを枯らし作物への影響を抑えた除草剤を選択性除草剤といいます[出典1]。全面散布を行う場合、非選択性除草剤を使えば区域内の植物をまとめて処理できますが、作付け中の水田や畑で選択性のない薬剤を全面散布すると、作物自体も枯れてしまいます。全面散布か局所散布かという範囲の判断と、選択性か非選択性かという成分の判断は、それぞれ独立して確認する必要があります。

液体(液剤・シャワー)と粒状タイプ:即効性と持続性の違い

茎葉処理剤の多くは液剤(水和剤・乳剤・フロアブル剤等を希釈するタイプや、そのまま散布できるシャワータイプ)として販売されており、散布後比較的短期間で雑草がしおれ始めるなど即効性が特長です[出典1]。これに対し粒状タイプ(粒剤・顆粒水和剤等)は主に土壌処理剤として使われ、土壌表面に処理層を作って発生を抑える持続性が特長です[出典1][出典2]。全面散布の場面では、速効性を求めるなら液剤タイプの茎葉処理剤、発生を長期間抑えたいなら粒状タイプの土壌処理剤という基本的な使い分けがあり、両者を組み合わせる体系処理も広く行われています。

農耕地用と非農耕地用の区分と、場所に応じた適切な薬剤選定の重要性

除草剤には、農作物や樹木・芝・花きなどの栽培・管理のために使用する「農薬登録のある除草剤」と、道路・駐車場・グラウンドなど栽培・管理目的以外で使用される「農薬登録されていない除草剤」の2種類があります[出典3]。前者は容器・包装に「農林水産省登録第○○○○○号」の表示があり、国が人の健康や環境への影響を評価したうえで登録しています。後者は農作物等の栽培・管理に使用することが法律で禁止されており、容器・包装や店舗の見やすい場所に「農薬として使用することができない」旨の表示が義務付けられています[出典3]。全面散布であっても局所散布であっても、対象が農地であれば農薬登録のある製品を選ぶことが前提になります。

除草効果を最大化するための正しい散布タイミングと手順

散布方法や薬剤の種類が適切でも、散布のタイミングを誤ると効果は大きく下がります。全面散布であっても、雑草の生育状況や天候を無視すれば期待した結果にはつながりません。ここでは雑草の生育状況、散布前後の水管理、天候や土壌水分といった環境条件を整理します。

雑草の生育ステージ(草丈・葉齢)に合わせた処理適期の把握

茎葉処理剤は、雑草の葉や茎から薬剤を吸収させて効果を発揮する性質上、雑草がある程度生長し、葉が展開した状態のほうが薬剤を吸収しやすいとされています。一方で、雑草が生長しすぎて茎葉が硬化し、種子を形成する段階まで進むと、除草剤で地上部を枯らしても、すでに落ちた種子から翌シーズン以降も発生を繰り返すことがあります。一般的には、雑草の生育が若く、葉が茂り始めた段階での散布が、吸収効率と防除効果の両面から望ましいとされていますが、対象となる雑草の種類や薬剤の登録内容によって適期は異なるため、使用する除草剤のラベルに記載された使用時期を優先して確認する必要があります(推定・要確認)。

散布前後の適切な水管理:止水期間の確保と薬剤の流出防止

水稲用除草剤は、湛水条件下で散布された有効成分が水田土壌の表層に吸着されることで除草効果を発揮する仕組みが基本になっています。安定した効果を得るためには、この処理層を壊さない水管理が重要で、とくに散布後7日間の管理が重要とされています[出典2]。この期間は水尻や畦畔からの漏水を防ぎ、強制的な落水やかけ流しを行わないようにする必要があります。公益財団法人日本植物調節剤研究協会は、水田水系外への流出防止技術として、散布後に水田の水がなくなるまで給水しない止水管理を提唱しています[出典2]。水口や水尻の止水を徹底することは、安定した除草効果を得るだけでなく、水田水系外への除草剤成分の流出を防止するためにも重要とされています[出典2]。

天候(晴天時)と土壌水分:茎葉への吸収率を高めるための環境条件

茎葉処理剤は葉の表面から薬剤を吸収させる仕組みであるため、散布直後に雨が降ると薬剤が流れてしまい、効果が落ちることがあります。散布は晴天が続き、当面雨の心配がない日を選ぶことが基本です。水田での散布時には、藻類の発生や水面の表層はく離が拡散を妨げることがあるため、藻類の発生が多い水田では早めの散布を心がけ、多発している場合は散布を見合わせることも必要とされています[出典2]。土壌処理剤についても、有効成分が土壌表面に処理層を形成する仕組み上、極端に乾燥した土壌条件では成分が定着しにくくなる場合があるため、圃場の状態を確認したうえで散布時期を判断することが実務上のポイントになります。

安全な使用のための注意点と環境・人体への配慮

全面散布・局所散布のいずれであっても、除草剤は周辺環境や作業者自身の安全に配慮しながら使用する必要があります。散布範囲が広いほど、周辺への影響を管理する重要性も高まります。ここではドリフト対策、ラベルの遵守事項、服装・保護具、散布後の管理を整理します。

周囲の植物への影響を防ぐドリフト(飛散)防止と風向きの確認

除草剤の散布に伴う飛散(ドリフト)は、隣接する農地の作物を枯らしたり、家庭菜園や近隣住民に被害を及ぼしたりする原因になります。実際に、強風時の農薬散布によって隣接するほ場の小麦が黄化・枯死した事例や、隣接する畑地での除草剤散布により稲の葉が変色し生育不良になった事例が報告されています[出典3]。散布は無風または風が弱いときなど、周辺への影響が少ない天候・時間帯に行い、事前に周辺住民等へ使用の目的・散布日時・薬剤の種類・使用者の連絡先を十分な時間的余裕をもって周知することが求められています[出典3]。全面散布は局所散布に比べて散布量・散布時間が多くなる分、風向きの確認や周辺への配慮がより重要になります。

商品ラベルの厳守:希釈倍率、使用回数、および散布器具の洗浄

除草剤を使用する際は、農薬取締法に基づき、ラベルに記載された希釈倍率・使用量・使用時期・総使用回数を守ることが法律で求められています[出典4]。規定より濃い濃度で使用しても効果が比例して高まるわけではなく、かえって周辺への薬害やドリフトのリスクを高めることになります。散布に使うタンクやホースに前回使用した薬液が残っていると、次に使用する作物へ意図しない薬害や残留をもたらすことがあるため、散布後は速やかに器具を洗浄し、残液を適切に処理することが必要です。

散布時の服装と保護具の整備、および散布後の立ち入り制限・管理

散布時には、皮膚への付着や薬剤の吸入を避けるため、長袖・長ズボン、農薬用マスク、保護メガネ、手袋といった防護装備を着用することが基本になります。散布区域内には、農薬使用者以外の者が立ち入らないよう、区域の明示や立入制限の措置を講じることが、農薬取締法に基づく使用基準の一部として位置づけられています[出典4]。とくに公園・街路樹周辺や住宅地に近い場所で散布する場合は、子どもやペットを含む周辺住民への影響を考慮し、散布後の立ち入りを一定期間制限するなどの配慮が推奨されます[出典3]。

まとめ

「茎葉散布」は薬剤の作用の仕方(すでに生えた雑草に効かせる方法)を、「全面散布」は薬剤を撒く範囲(圃場全体を均一に処理する方法)を表す言葉であり、両者は本来別の軸の概念です。水田ではこの二つの軸を踏まえたうえで、湛水散布・原液湛水散布・周縁部散布・畦畔散布・水口施用・落水散布・無人航空機散布といった複数の散布方法が使い分けられており、それぞれに求められる水管理の条件も異なります。除草剤を選ぶ際は、散布範囲だけでなく、選択性・非選択性、液剤・粒剤、農耕地用・非農耕地用という複数の軸を組み合わせて判断し、ラベルに記載された使用方法と、周辺環境・人体への配慮を守りながら使用することが基本になります。

参考文献

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

リンク

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