空中散布による肥料散布とは?専用製品から可変施肥まで実務的に整理

ドローンによる農薬散布は広く知られるようになりましたが、同じ機体を使った肥料の空中散布、いわゆる「ドローン追肥」も、水稲を中心に導入が進んでいます。動力散布機による重労働からの解放や、圃場に入らずに済む踏圧被害の回避など、農薬散布とは異なるメリットがある一方、専用の肥料や散布装置の選定、運用上のトラブルなど、事前に押さえておくべき論点も少なくありません。本記事では、空中散布専用肥料の特長から、導入のメリット、事前検討事項、次世代の可変施肥技術、そして実務上の安全管理までを整理します。

目次

空中散布(ドローン・無人航空機)による肥料散布の概要と専用製品

ドローンによる肥料散布では、一般的な粒状肥料をそのまま使うのではなく、空中散布に適した専用の肥料が数多く開発されています。機体の特性やタンク容量に合わない肥料を使うと、散布ムラや機体トラブルの原因になることもあるため、専用製品の選定は導入の第一歩といえます。まずはこうした専用肥料がどのような特長を持つのか、代表的な製品と、散布に使う装置の組み合わせを整理します。

空中散布専用肥料とは?ドローン散布に最適化された高成分・機能性資材の特長

空中散布専用肥料は、ドローンなど無人航空機のタンク容量や機体特性に合わせて設計された肥料です。一般的な肥料に比べて窒素などの主要成分の含有率を高めているものが多く、少ない散布回数・タンクへの補給回数で必要な養分を圃場に供給できる点が共通した特長になっています。また、金属製のタンクや散布装置を腐食させにくい配合になっていたり、粒径をそろえて散布精度を高めていたりと、機体側の負担を抑えながら均一に散布できるよう工夫されています。散布後は速やかに溶けて作物に吸収される設計になっている製品もあり、動力散布機による従来の追肥作業に比べて大幅な時間短縮につながる例が報告されています。

主要な製品事例:空散追肥306、ソラマキ君、空散SiK、および水田活力資材の活用

代表的な製品としては、片倉コープアグリの「空散追肥306」が挙げられます。窒素30%・カリ6%・苦土1.0%・ホウ素0.015%という高成分設計で、機体を腐食させにくく、粒同士がタンク内で結合して固まりにくい特長を持ち、10アールあたりの散布時間は3〜5分程度とされています。日東エフシーの「ソラマキ君」は、成分比30-1-10・苦土2.0という配合の水稲用ドローン肥料で、粒径をそろえることで散布ムラを抑え、稲の登熟に必要なカリ・苦土を補給する設計になっています。北海道肥料の「空散SiK」は、水稲のケイ酸追肥に特化した小粒サイズの専用資材で、ケイ酸により茎葉を丈夫にし、耐倒伏性や耐病性の向上、品質向上につながるとされています。このほか、水田の生育を支える活力資材としてケイ酸や微量要素を配合した製品も各社から展開されており、圃場や作型に応じて使い分けられています。

肥料散布装置(粒剤散布機)と農業用ドローン(飛助MG/DX等)の組み合わせ

肥料の空中散布を行うには、農薬散布用のドローンに肥料・粒剤散布装置を組み合わせて使用します。マゼックスの農業用ドローン「飛助MG/DX」は、従来の1キロ粒剤専用だった散布装置の内部をアタッチメント式に変更し、肥料や粒状の資材にも対応できるようにした機種で、タンクの脱着も簡単に行える設計になっています。散布量の大きい肥料散布では、農薬散布よりも大容量のタンクを搭載できる機体が求められる場合があり、機種選定にあたっては散布幅・タンク容量・重量といった仕様を、使用したい肥料の散布量と照らし合わせて確認することが実務上のポイントになります。

ドローンで肥料(追肥)を行うメリットと導入による効果

ドローンによる肥料散布は、単に作業を機械化するだけでなく、圃場条件や作物の状態に応じた柔軟な対応を可能にします。労力の削減だけでなく、作物へのダメージ軽減や散布精度の向上といった、従来の地上散布では得にくかった副次的な効果も報告されています。ここでは代表的な3つのメリットを紹介します。

作業の省力化:傾斜地や圃場のぬかるみに左右されない効率的な散布技術

ドローンによる肥料散布は、機体が上空を飛行して薬剤・肥料を散布するため、傾斜地や湿田のようにぬかるんだ圃場でも、地形や足場の状態に作業効率が左右されにくいという特長があります。福井県が実施した実証では、ドローンによる大麦の追肥作業において、10アールあたりの作業時間が2.8分という結果が示されており、動力散布機による重労働を伴う従来の追肥作業と比べて、大幅な省力化につながることが確認されています。

作物保護の実現:圃場内に入らない空中散布による踏圧被害の回避

動力散布機やブロードキャスターを用いた地上からの追肥作業では、作業者が圃場内を歩き回ることで、生育中の作物を踏みつけてしまう踏圧被害が避けられない場面があります。特に水稲や大麦のように株間が狭く茎葉が繁茂した圃場では、人が歩くたびに茎を傷めたり倒したりするリスクがあり、収量や品質への影響も無視できません。ドローンによる空中散布であれば、機体が上空から散布するため、圃場内に人が立ち入る必要がなく、この踏圧被害を回避できます。特に生育が進んで株間が狭くなった時期の追肥では、この効果がより大きな意味を持ちます。

精密農業の推進:ピンポイント散布と生育状況に合わせた養分供給

ドローンは、あらかじめ設定した飛行ルートに沿って自動で散布できる機能を備えた機種が増えており、圃場内の特定の範囲だけを狙ったピンポイント散布が可能になっています。生育状況にムラがある圃場では、必要な範囲にだけ追肥を行うといった対応もでき、農薬散布と同様に、精密農業の一手法として肥料散布の効率化にも活用が広がっています。こうした技術は、後述する生育センシングと組み合わせることで、さらに精度の高い養分供給へと発展しています。

導入成功に向けた事前検討と運用上の課題・トラブル対策

ドローンによる肥料散布は多くのメリットがある一方、導入前の検討が不十分だと、期待した効果が得られなかったり、運用中にトラブルが発生したりする場合があります。全国各地の実証事業では、成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例や運用中の具体的なトラブルも数多く報告されており、これらは導入を検討する経営体にとって貴重な参考情報になります。ここでは実際の実証事業で報告されている知見をもとに、事前検討のポイントと課題を整理します。

スマート農業実証プロジェクトに学ぶ導入成功のカギと事前検討事項

農研機構が推進するスマート農業実証プロジェクトでは、ドローンによる肥料散布の導入効果として、動力散布機による従来の散布と比較し、手動操作のドローンで48.5%、自動航行のドローンで33.1%の作業削減が確認された事例(福島県南相馬市、令和元・2年度実績)が報告されています。また、経営規模30ヘクタールの経営体にドローンを1台導入したところ、既存のラジコンヘリコプターによる防除委託を下回るコストで作業できた事例(新潟県上越市、令和2年度実績)もあります。同プロジェクトでは、導入を成功させるための事前検討事項として、農作業安全のための指針の確認、肥料散布に適合した機体かどうかの確認、散布予定の肥料で想定される散布重量の算出、導入予定機の重量確認、現場までの輸送方法の確認、離陸できる平坦な場所の有無、十分な数のバッテリーの確保、操作に習熟した操縦者の確保などが挙げられています。

運用中に発生するトラブル事例と導入効果が現れなかった原因の分析

同プロジェクトでは、導入効果が十分に現れなかった例として、飛行中にコントロールを失い機体を池に墜落させて失ってしまった事例や、リモートセンシングで得たNDVIマップと連携させて施肥量を自動設定する方法が確立できていなかった事例が報告されています。また、運用中に発生したトラブルとして、航空法等に基づく事前の許可・届け出や事後報告といった事務手続きの負担が大きいこと、追肥に使用した部品が腐食してしまったことなどが挙げられています。これらの事例は、機体の操作習熟や気象条件の把握、専用肥料の選定といった事前準備の重要性を裏づけるものといえます。

現在の課題:専用装置の取付作業とドローン対応肥料の選択肢拡大

肥料散布用のドローンを運用するうえでは、農薬散布用の装置から肥料・粒剤散布用の装置へ付け替える作業が必要になる場合があり、この着脱作業や調整に一定の手間がかかることが現場の課題として挙げられます。散布する肥料の銘柄が変わるたびに、インペラの回転数や散布幅の設定を見直す必要がある点も、運用側が慣れるまでは負担に感じやすい部分です。また、ドローンで使用できる専用肥料は年々製品数が増えているものの、対応する成分や粒度、対象作物はメーカー・製品ごとに異なるため、圃場で使いたい成分設計の肥料が必ずしもすぐに見つかるとは限りません。今後、対応装置の使い勝手の向上と、ドローン対応肥料のラインナップ拡大の両面が、普及をさらに後押しする鍵になると考えられます。

次世代の施肥技術:圃場センシングと可変施肥の活用

ドローンによる肥料散布は、一律の散布から一歩進んで、圃場内のばらつきに応じた施肥へと発展しつつあります。センシング技術と組み合わせることで、これまで経験と勘に頼っていた追肥の判断を、データに基づいて行えるようになりつつあります。ここでは、センシング技術と可変施肥の考え方を紹介します。

センシングデータを活用したドローン追肥の手順と収量安定化への寄与

可変施肥とは、作物の生育状況や土壌のばらつきに応じて、圃場内の場所ごとに施肥量を変えて散布する技術です。ドローンや衛星によるリモートセンシングで取得した生育マップをもとに、圃場内の生育ムラを把握し、そのデータに基づいてドローンで基肥・追肥を可変的に散布する取組が広がっています。センシングから施肥までの一連の手順を確立できれば、圃場間・圃場内の生育ムラを改善し、収量の安定化につなげることが期待されています。

生育ムラに応じた可変施肥による肥料コストの最適化と品質向上

可変施肥によって適切な施肥量を場所ごとにコントロールすることで、収穫物全体の品質を安定させたり、過剰な施肥による環境負荷を低減させたり、倒伏のリスクを抑えたりする効果が期待できます。福井県の実証では、水稲・大麦それぞれで一括肥料から分施体系へ転換し、ドローンによる追肥を組み合わせることで、水稲で10アールあたり4,600円、大麦で10アールあたり3,300円の肥料費削減効果が確認されており、経営規模40ヘクタール(水稲25ヘクタール・大麦15ヘクタール)の経営体で試算すると、年間で数十万円規模の経費削減効果が見込まれるとされています。可変施肥は、コスト最適化と収量・品質の向上を同時に狙える技術として、今後の普及が期待される分野です。

空中散布における実務上の留意点と安全管理

肥料の空中散布を安全かつ効果的に行うには、製品ごとの使用方法を守ることに加えて、周辺環境への配慮や機体・散布器具の管理も欠かせません。導入後も継続的な管理を怠ると、機体トラブルや散布精度の低下につながりかねません。最後に実務上の留意点を整理します。

肥料製品ごとの使用方法と散布量・タイミングの適切な管理

肥料は製品によって成分濃度や粒径、飛散距離の特性が異なるため、それぞれの使用方法に従って散布量やタイミングを管理する必要があります。福井県の実証では、大粒尿素と大粒硫安という肥料の種類によって、同じインペラ回転数でも飛散距離や散布ムラの出方が異なることが確認されており、散布幅と施肥量に応じてシャッター開度を調整する必要があることが示されています。使用する肥料のメーカーが示す散布条件(散布幅、飛行速度、施肥量の設定方法など)を確認し、圃場ごとの面積や地形に合わせて事前に飛行計画を立てておくことが、均一な散布と施肥効果の安定につながります。マニュアル操作で飛行する場合は操縦者の技量による誤差も生じやすいため、施肥量・散布幅・飛行速度を入力すればシャッター開度が自動で調整される機能を備えた機種を選ぶことも、散布精度を安定させる手段のひとつです。

周辺環境への配慮と散布器具のメンテナンスおよび安全な運用体制

肥料の空中散布であっても、無人航空機を用いる以上、航空法に基づく機体登録や飛行許可・承認申請、飛行計画の通報といった手続きは農薬散布と同様に必要です。散布器具についても、使用後は残った肥料を取り除いたうえできれいに清掃し、肥料タンク内が濡れていない状態で保管するなど、腐食や目詰まりを防ぐための日常的なメンテナンスが求められます。また、周辺の農地や住宅、水路などへの飛散にも配慮し、風向・風速を確認したうえで散布を行うこと、操縦に習熟したオペレーターと補助者による安全な運用体制を整えることが、トラブルを防ぎながら空中散布のメリットを最大限に生かすための基本になります。

まとめ

空中散布による肥料散布は、空散追肥306やソラマキ君、空散SiKといった専用肥料と、肥料散布装置を組み合わせた農業用ドローンによって、水稲を中心に導入が広がっている技術です。傾斜地や湿田でも作業効率が落ちにくい省力化効果や、圃場に立ち入らずに済む踏圧被害の回避といったメリットがある一方、機体・装置の選定や専用肥料の選択、運用中のトラブル対策など、事前に検討すべき論点も少なくありません。生育センシングと組み合わせた可変施肥は、生育ムラの改善や肥料コストの最適化、収量・品質の向上を同時に狙える次世代の技術として期待されており、製品ごとの使用方法の遵守と周辺環境への配慮、安全な運用体制の整備とあわせて実践することで、空中散布による施肥の効果を最大限に引き出すことができます。

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

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