雑草がすでに生えている状態で、葉や茎に薬剤をかけて枯らす方法を茎葉処理(茎葉散布)といいます。除草剤には、これから発芽する雑草を土壌中で抑える土壌処理剤もあり、どちらを選ぶかで散布の時期や効果の現れ方が大きく変わります。本記事では、茎葉処理型の基礎知識から、除草剤の分類・作用の仕組み、正しいまき方、水田での水管理、安全に使うための注意点までを整理します。
雑草茎葉散布(茎葉処理型)の基礎知識と特徴
除草剤を選ぶ際にまず押さえておきたいのが、茎葉処理型がどのような仕組みで雑草を枯らし、いつ・どのタイプを使うのが効果的かという基本です。散布のタイミングを誤ると、せっかく散布しても十分な効果が得られないこともあります。ここでは茎葉処理の仕組み、散布の適期、剤型による効果の違いを整理します。
茎葉処理型とは?すでに生えている雑草を枯らす仕組み
除草剤には、すでに生長した雑草に散布して枯らす「茎葉処理剤」と、まだ雑草が芽を出さないうちに土壌表面に散布して発生を抑える「土壌処理剤」の大きく二つの分類があります[出典1]。雑草茎葉散布は前者にあたり、散布された薬剤が雑草の葉や茎の表面から吸収され、植物体内に運ばれることで生長を止め、枯死させる仕組みです。雑草も作物も光合成や細胞分裂といった基本的な生理機能を持つ植物であるため、除草剤の作用は雑草にも作物にも同様に働きます。このため、茎葉処理剤を使う際は、対象とする雑草だけに薬剤が付着するよう散布方法に注意する必要があります[出典1]。
散布に適した時期の目安:雑草が生長する4月〜10月が適期
茎葉処理剤は、雑草の葉や茎から薬剤を吸収させて効果を発揮する性質上、雑草が十分に生長し葉が茂った状態でないと期待した効果が得られません。雑草の生育が活発になる4月から10月頃が散布の目安とされ、この期間であれば多くの一年生雑草・多年生雑草の茎葉が繁茂し、薬剤を吸収しやすい状態になります。逆に、雑草がまだ発芽していない早春や、生育が止まる冬季には茎葉処理剤の効果は期待しにくく、この時期に雑草の発生を抑えたい場合は土壌処理剤を組み合わせる必要があります。
液剤タイプと粒剤タイプの違い:即効性と浸透移行性の特長
茎葉処理剤の多くは液剤(水和剤・乳剤・フロアブル剤等を水で希釈するか、原液のまま使用するタイプ)として販売されており、散布後数日で雑草がしおれ始めるなど即効性が特長です[出典1]。薬剤が葉の表面から吸収されたのち、植物体内の維管束を通じて根や地下茎まで移行する性質(浸透移行性)を持つ成分では、地上部だけでなく地下部まで枯らすことができるため、スギナやササのような地下茎で増える多年生雑草にも効果が期待できます。一方、粒剤タイプは主に土壌処理剤として使われ、土壌表面に処理層を作って発芽を抑える持続性が特長であり、即効性を求める茎葉散布とは使い分けの考え方が異なります[出典1]。
「茎葉処理剤」と「土壌処理剤」の違いと見分け方
除草剤を購入する際、パッケージのどこを見れば茎葉処理剤か土壌処理剤かを判断できるのか迷う場面は少なくありません。両者は散布のタイミングも効果の現れ方も異なるため、混同すると期待した防除効果を得られません。ここでは両者の作用の違いと、組み合わせて使う体系処理の考え方、除草剤が雑草を枯らす仕組みを整理します。
葉から吸収させる茎葉処理と土に膜を張る土壌処理(予防型)の対比
茎葉処理剤はすでに生えている雑草の葉や茎に薬剤を付着させ、そこから吸収させて枯らします。これに対し土壌処理剤は、土壌表面に有効成分の処理層(膜)を形成し、雑草の種子が発芽する際や、伸びてきた芽・根がこの処理層に触れることで吸収され、発生を抑える仕組みです[出典1]。このため土壌処理剤は、雑草がまだ生えていない状態、たとえば耕起後や播種前後のタイミングで散布するのが基本になります。ラベルに「茎葉散布」と記載されているものは茎葉処理剤、「土壌散布」「全面土壌散布」と記載されているものは土壌処理剤にあたり、農薬取締法上の登録内容としてもこの使用方法の区分に沿って個別に審査・登録されています[出典5]。
体系処理(体系防除):作型に応じた効果的な組み合わせと防除の基本
土壌処理剤の持続性(発生を抑え続ける効果)と、茎葉処理剤の速効性(生えている雑草を枯らす効果)を組み合わせて使う方法は体系処理(体系防除)と呼ばれます。たとえば土壌処理剤を使用したあとに効果が薄れて発生してきた雑草や、土壌処理剤の適期を逃して生えてしまった雑草に対して茎葉処理剤を追加で散布することで、生育中の雑草とこれから発生する雑草の両方を抑えることができます。水稲用除草剤では、土壌処理成分と茎葉処理成分をあらかじめ混合した「茎葉兼土壌処理剤」も販売されており、1回の散布で両方の効果をねらう体系が広く用いられています[出典1]。
除草剤が雑草を枯らすメカニズム:光合成阻害やアミノ酸合成阻害
除草剤が雑草を枯らす仕組みは成分によって異なり、大きく分けて光合成を阻害するもの、植物ホルモンの働きを撹乱するもの、光の存在下で活性酸素を発生させるもの、タンパク質の材料となるアミノ酸の生合成を阻害するもの、脂肪酸の生合成や細胞分裂を阻害するものなどがあります[出典1]。光合成阻害型は雑草が体内に蓄えた栄養を使い切るまで時間がかかるため効き目がゆっくり現れる一方、活性酸素を発生させるタイプは効果が速やかに現れるという特徴があります[出典1]。人間を含む動物は植物のように自らアミノ酸や脂肪酸のすべてを合成する仕組みを持たないため、これらの生合成を阻害する成分は、雑草には深刻なダメージを与える一方でヒトへの影響は小さいとされています[出典1]。
除草剤の種類と成分による分類(非選択性・選択性)
除草剤を選ぶ際は、作用の仕組みだけでなく、対象を選ばず枯らすのか、特定の雑草だけを狙うのかという分類も重要な判断材料になります。使用する場所によっては登録の有無そのものが法律上の問題になることもあります。ここでは非選択性・選択性の違いと主な成分、使用できる場所による区分を整理します。
全てを枯らす「非選択性」か、特定の雑草を狙う「選択性」か
雑草も作物も植物である以上、生理機能は基本的に同じであるため、除草剤の作用は区別なく及びます。雑草と作物を区別せずに枯らす除草剤を非選択性除草剤といい、雑草と作物の間にあるわずかな感受性の違いを利用して、雑草だけを枯らし作物への影響を抑えた除草剤を選択性除草剤といいます[出典1]。非選択性除草剤は、休耕地や畦畔、農道など作物がない場所や、作付け前の全面除草に向いており、作物が生育している畑や田の中で使用すると作物自体も枯れてしまうため、使用場所と使用時期の判断が重要になります。
主な成分と商品例:グリホサート系、グルホシネート系、イネ科用乳剤など
茎葉処理型の非選択性除草剤としてよく使われる成分には、グリホサート系とグルホシネート系があります。グリホサート系はアミノ酸の生合成経路を阻害するタイプで、雑草の根まで枯らす浸透移行性を持つ一方、効き目が現れるまでに一定の日数を要します[出典1]。グルホシネート系はグルタミンの生合成を阻害して植物体内にアンモニアを蓄積させ、光合成を阻害するタイプで、グリホサート系に比べて速効性がある点が特長です[出典1]。このほか、水田や畑地でイネ科雑草にとくに効果を発揮するよう設計された乳剤タイプの選択性除草剤も販売されており、対象とする雑草の種類や作物の種類に応じて成分を選ぶことが基本になります。
農耕地用と非農耕地用の違い:使用場所に応じた適切な薬剤選定
除草剤には、農作物や樹木・芝・花きなどの栽培・管理のために使用する「農薬登録のある除草剤」と、道路・駐車場・グラウンドなど栽培・管理目的以外で使用される「農薬登録されていない除草剤」の2種類があります[出典2]。前者は容器・包装に「農林水産省登録第○○○○○号」の表示があり、国が人の健康や環境への影響を評価したうえで登録しています。後者は農作物等の栽培・管理に使用することが法律で禁止されており、容器・包装や店舗の見やすい場所に「農薬として使用することができない」旨の表示が義務付けられています[出典2]。農林水産省は、「非農耕地専用」という表現が、農耕地でなければ使用できるとの誤解を招く事例があるとして、この表現を用いた表示を控えるよう呼びかけています[出典2]。家庭菜園を含め、農作物を栽培する場所で使用する除草剤は、必ず農薬登録のある製品を選ぶ必要があります。
効果を最大化する正しいまき方と手順
同じ除草剤でも、まき方や散布のタイミングによって効果は大きく変わります。濃度を濃くすれば効くというものではなく、天候や生育状況、水田特有の水管理まで踏まえた判断が必要です。ここでは希釈の考え方、散布のタイミング、水田での水管理の判断、混用に関する話題までを整理します。
希釈タイプとストレートタイプ:正しい濃度調整とまき方のコツ
茎葉処理剤には、原液を規定の倍率に水で希釈して散布する希釈タイプと、そのまま使用できるストレートタイプがあります。希釈タイプは広い面積に散布するのに向いており、ラベルに記載された希釈倍率・使用量を守って調製する必要があります。ストレートタイプは小面積やピンポイントの雑草対策に向いていますが、いずれのタイプでも、規定より濃い濃度で使用しても効果が比例して高まるわけではなく、かえって周辺への薬害やドリフトのリスクを高めることになります。使用する際は、農薬取締法に基づき、ラベルに記載された希釈倍率・使用量・使用時期・総使用回数を守ることが前提になります[出典5]。
散布のタイミング:天候(晴天時)や雑草の生育状況(草丈)の影響
茎葉処理剤は葉の表面から薬剤を吸収させる仕組みであるため、散布直後に雨が降ると薬剤が流れてしまい、効果が落ちることがあります。散布は晴天が続き、当面雨の心配がない日を選ぶことが基本です。また、風が強い日の散布は、飛散(ドリフト)により隣接する農地や家庭菜園、住宅地に薬剤がかかるおそれがあるため、無風または風が弱いときに行う必要があります[出典2]。雑草の生育状況としては、葉が十分に広がり茎葉が茂った状態のほうが薬剤の吸収量が増えて効果が高まりやすい一方、草丈が伸びすぎて種子が形成された状態では、除草剤で枯らしても種子から再び発生することがあるため、生育の早い段階での散布が望ましいとされています。
水田における適正使用:散布時の水管理と湛水・落水の判断
水稲用の除草剤は、剤型や散布方法によって求められる水管理が異なります。土壌処理剤を中心とした湛水散布では、散布時に田面が露出しないよう3〜5センチメートル程度の湛水状態を保ち、本田内全面に均一に散布します[出典3]。これに対し、茎葉処理剤を散布する場合は、圃場を落水状態またはごく浅い状態にして、雑草の茎葉が水面上に十分露出する条件で散布する方法がとられます[出典3]。散布後は少なくとも7日間、入水やかけ流しを行わずそのままの状態を保つことが基本で、この期間に水尻や畦畔からの漏水があると、除草剤の効果が薄れるだけでなく、水田水系外への成分流出にもつながります[出典3]。公益財団法人日本植物調節剤研究協会は、散布後は水田の水がなくなるまで給水しない止水管理を推奨しています[出典3]。
尿素の混用による除草効果の向上とジェネリック除草剤の活用
茎葉処理剤の浸透を高める工夫として、チッソ肥料である尿素を薬液に少量混ぜる「尿素混用」が生産現場で行われることがあります。尿素が葉の表面のワックス層やクチクラ層をゆるめ、薬剤を浸透しやすくする作用があるとされていますが、効果の程度は除草剤の種類や対象雑草によって異なり、すべての除草剤で同様の効果が得られるとは限りません[出典4]。混用する場合は、使用する除草剤のラベルに混用に関する規定や禁止事項がないかを必ず確認する必要があります。また、除草剤には医薬品のジェネリックと同様に、特許が切れた有効成分を用いて別の製造者が製造・登録した製品があり、先発製品と同じ有効成分でありながら比較的安価に入手できる場合があります。いずれの製品を選ぶ場合も、農薬登録の有無とラベルの使用方法を確認することが前提になります[出典2]。
安全に使用するための注意点とリスク管理
除草剤は正しく使えば安全性が確保される一方、飛散や誤った使用方法によって周辺の農地や住宅地に被害を及ぼすことがあります。実際に強風時の散布で隣接する作物が枯れた事例も報告されています。ここではドリフト対策、使用上の基本的な注意事項、散布後の管理について整理します。
ドリフト(飛散)防止と隣接する農地・家庭菜園への配慮
除草剤の散布に伴う飛散(ドリフト)は、隣接する農地の作物を枯らしたり、家庭菜園や近隣住民に被害を及ぼしたりする原因になります。実際に、強風時の農薬散布によって隣接するほ場の小麦が黄化・枯死した事例や、隣接する畑地での除草剤散布により稲の葉が変色し生育不良になった事例が報告されています[出典2]。散布は無風または風が弱いときなど、周辺への影響が少ない天候・時間帯に行い、事前に周辺住民等へ使用の目的・散布日時・薬剤の種類・使用者の連絡先を十分な時間的余裕をもって周知することが求められています[出典2]。
使用上の注意事項:ラベルの確認、散布器具の洗浄、および服装の安全確保
除草剤を使用する際は、容器・包装に記載されている使用上の注意事項を必ず確認し、遵守する必要があります[出典2]。散布に使うタンクやホースに前回使用した薬液が残っていると、次に使用する作物へ意図しない薬害や残留をもたらすことがあるため、散布後は速やかに器具を洗浄し、残液を適切に処理することが必要です。散布時には、皮膚への付着や薬剤の吸入を避けるため、長袖・長ズボン、農薬用マスク、保護メガネ、手袋といった防護装備を着用することが基本になります。
散布後の管理と効果・薬害等の注意:周辺環境への影響を最小限に抑える
散布後は、散布した区域だけでなく周辺の作物や環境への影響がないかを確認することも大切です。除草剤の種類によっては、対象作物に薬害が生じたり、後作の作物に影響が残る場合があるため、ラベルに記載された使用時期や後作物に関する注意事項を確認しておく必要があります。近隣に有機栽培のほ場や家庭菜園がある場合は、散布計画の段階から周辺の作物の種類や収穫時期を把握し、必要に応じて散布時期の調整や緩衝地帯の確保について近接する生産者と相談しておくことが、トラブルを未然に防ぐ実務上のポイントになります。
まとめ
雑草茎葉散布は、すでに生えている雑草の葉や茎から薬剤を吸収させて枯らす除草方法で、土壌処理剤による予防的な防除と組み合わせる体系処理によって、より安定した雑草管理が可能になります。除草剤には非選択性・選択性、農耕地用・非農耕地用といった複数の分類軸があり、目的の雑草・使用する場所・作物の有無に応じて適切な製品をラベルの記載に沿って選ぶことが基本です。水田では剤型に応じた湛水・落水の水管理が、露地では風の弱い時間帯の選択と周辺への事前周知が、それぞれ効果と安全性を左右します。ラベルの確認、散布器具の洗浄、防護装備の着用という基本を押さえたうえで、周辺の農地・住民への配慮を組み合わせることが、雑草茎葉散布を安全に活用するための出発点になります。
参考文献
- [出典1] 除草剤はどのように雑草を枯らすのでしょうか。|農薬はどうして効くの?|教えて!農薬Q&A:クロップライフジャパン
- [出典2] 除草剤の販売・使用について:農林水産省
- [出典3] 水稲用除草剤の適正使用:公益財団法人日本植物調節剤研究協会
- [出典4] 尿素混用|『現代農業』用語集:一般社団法人農山漁村文化協会
- [出典5] 農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成15年農林水産省・環境省令第5号):農林水産省
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