ドローンや無人ヘリコプターで農薬を空中散布する際、最初に確認すべきなのが「使いたい薬剤がドローン用として登録されているか」という点です。農薬取締法上、無人航空機による散布は薬剤ごとの登録内容として個別に定められており、地上散布用の登録しかない薬剤をそのままドローンで使うことはできません。本記事では、登録農薬の確認方法を簡潔に整理したうえで、稲・麦・大豆・野菜類といった対象作物別に主要な登録薬剤を紹介し、除草剤の特性やメーカー提供の一覧表の活用方法まで解説します。
農薬取締法に基づく空中散布用の農薬登録と最新の適用拡大状況
農薬取締法上、無人航空機で使用できる薬剤は、登録の際に使用方法として「無人航空機による散布」等が明記されているものに限られます。ここでは確認方法の要点と、登録拡大に向けた国の取組、機体による剤型の違いを簡潔に整理します。詳しい手続きの背景は、農薬取締法とドローン散布の手続きを扱った既存記事もあわせてご確認ください。本記事では手続きの詳細よりも、実際に選ぶべき薬剤そのものに焦点を当てて整理を進めます。生産者が現場で直面するのは「手続きをどう進めるか」以前に「そもそも使いたい薬剤がドローンに対応しているか」という初歩的な疑問であることが多く、この確認を後回しにすると、機体や技能証明への投資が先行してしまうリスクもあります。
ドローン・無人ヘリで使用可能な登録農薬の確認方法と検索ツールの活用
ドローンに適した農薬とは、使用方法が「無人航空機による散布」「無人ヘリコプターによる散布」「無人航空機による滴下」または「無人ヘリコプターによる滴下」とされている農薬を指します。なお、散布機器が指定されていない「散布」「全面土壌散布」等の使用方法の農薬(粒剤などの固体を含む)についても、希釈倍率・使用量等の登録内容を遵守できる範囲であればドローンで使用可能です。個別の薬剤がドローン用途に対応しているかどうかは、農林水産省が運用する「農薬登録情報提供システム」で確認できます。検索方法は、「様々な項目から探す」を選択し、「使用方法」欄に「無人」と入力したうえで対象作物を選択して検索する手順です。検索結果だけでなく、実際に使用する農薬のラベル・注意事項を必ず確認する必要があります。
「農業用ドローンの普及計画」に伴うニーズ収集と登録申請の促進に向けた取組
農林水産省は2019年3月に「農業用ドローンの普及計画」を策定し、2022年度末までの4年間でドローンで使用可能な農薬を新たに200剤増加させる目標を掲げました。現場のニーズを都道府県から収集し、農薬メーカーに通知することで登録申請の検討を促すとともに、産地とメーカーのマッチングや地域における登録試験実施への支援を通じて、適用拡大を推進しています。この取組の結果、2025年4月1日現在のドローン用登録農薬数は総計1,461件に達しており、稲・麦類だけでなく、野菜類や豆類(種実)といった品目でも登録が着実に進展しています。
無人マルチローター(ドローン)と無人ヘリコプターにおける登録内容と剤型の違い
農薬の登録内容は、無人マルチローター(ドローン)と無人ヘリコプターとで別々に定められている場合があります。ドローンは積載重量が少なく薬剤タンクの容量が小さいため、高濃度・少量での散布に対応した専用の登録が求められる一方、無人ヘリコプターは比較的大容量のタンクを搭載できるため、希釈倍率や散布量の設定が異なるケースがあります。同じ有効成分の薬剤であっても、無人ヘリ用とドローン用とで登録番号や適用作物の範囲が異なることがあるため、機体の種類ごとに登録内容を個別に確認することが実務上の基本になります。剤型についても、水和剤・フロアブル剤・粒剤といった種類ごとに希釈の要否や散布のしやすさが異なるため、保有する機体の散布装置の仕様にあわせて選定することが求められます。粒剤タイプは希釈作業が不要な一方、フロアブル剤や水和剤は事前の希釈調整が必要になるため、散布現場での作業手順にも影響します。
対象作物別の登録農薬一覧と薬剤選定のポイント
ここからは、実際にどのような薬剤が対象作物ごとに登録されているのか、代表的な製品を例に整理します。個々の薬剤の適用作物・希釈倍数・散布量は登録内容やラベル表示によって細かく定められているため、実際の使用にあたっては必ず最新のラベル情報を確認してください。同じ有効成分でも作物によって希釈倍数や散布量の設定が変わる点は、薬剤選定の実務で特に見落とされやすいポイントです。
稲、麦、大豆、および野菜類(キャベツ、ブロッコリー等)における主要な散布用薬剤
稲を対象とした無人航空機散布用薬剤の例として、キラップフロアブル(登録第21471号、エチプロール10.0%)はウンカ類・カメムシ類・イネドロオイムシに対して登録されており、8~16倍希釈で10アールあたり0.8リットルという少量散布に対応しています。同じ有効成分は大豆のカメムシ類にも適用があり、水稲と大豆の両方を作付けする経営体では、防除の計画を立てやすい薬剤の一つといえます。麦類では、シルバキュアフロアブル(登録第20285号、テブコナゾール40.0%)が小麦の雪腐小粒菌核病・うどんこ病・赤かび病・赤さび病、大麦のうどんこ病・赤かび病に対して16倍希釈・10アールあたり0.8リットルで登録されています。野菜類では、アドマイヤー顆粒水和剤(登録第20342号、イミダクロプリド50.0%)が、稲・かぼちゃ・かんきつ・キャベツ・さといも・しょうが・だいず・たまねぎ・にんにく・ねぎ・はくさい・はとむぎ・ばれいしょ・レタス・ブロッコリー・やまのいも等、幅広い作物のアブラムシ類等に対応した登録を持っています。作物ごとに希釈倍数・散布量が細かく分かれているため、キャベツとブロッコリーのように同じ薬剤でも希釈倍数の設定が異なる点には注意が必要です。たとえばキャベツでは希釈倍数32倍・散布量1.6~2リットル、ブロッコリーでは希釈倍数24倍・散布量1.6~2リットルという形で、作物ごとに個別の使用基準が定められています。こうした細かな違いは、ラベルを確認せずに使用方法を流用してしまうと適用外使用につながりかねないため、作物を切り替える際には都度確認する習慣が欠かせません。
空中散布可能な除草剤の特性とドローン散布におけるメリット・デメリット
水稲用の除草剤では、イネリーグ1キロ粒剤(登録第24007号、クロメプロップ4.5%・テフリルトリオン3.0%・フェントラザミド3.0%)のように、移植水稲・直播水稲の一年生雑草やマツバイ、ホタルイ、ミズガヤツリ等の多年生雑草に対応した1キロ粒剤タイプの製品が数多く登録されており、10アールあたり1キログラムという定量での散布が可能です。同系統の製品にはフロアブルタイプもあり、たとえばイネリーグフロアブル(登録第24008号)は同じ有効成分を液体状にしたもので、10アールあたり0.5リットルという少量散布に対応しています。粒剤タイプは液剤に比べて希釈作業が不要で、ドローンの少量散布特性と相性が良い一方、散布時の風による飛散(ドリフト)や均一な散布量の確保には注意が必要とされています。フロアブルタイプは粒剤よりもさらに散布量を絞り込める反面、希釈水量の管理や散布ノズルの詰まり防止といった点に配慮が必要です。空中散布用除草剤全般の活用メリット・デメリットについては、空中散布と除草剤を扱った既存記事でより詳しく整理していますので、そちらもご参照ください。
各メーカーや販売店が提供する最新の「無人航空機登録農薬一覧表」の活用
農薬メーカーや農薬卸売事業者の中には、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)が公表する農薬登録情報を独自に加工し、「無人航空機登録農薬一覧表」として無償提供している事業者があります。こうした一覧表は年1回程度の頻度で更新されており、作物別・薬剤別に整理されているため、個別に農薬登録情報提供システムを検索する手間を省ける実務上の利点があります。また、バイエル クロップサイエンスのように、自社製品に限定した「空中散布・無人航空機散布用農薬一覧」をウェブサイト上で公開しているメーカーもあり、稲・小麦・大麦・キャベツ・ブロッコリー等、作物ごとに登録番号・有効成分・希釈倍数・散布量を一覧化した表形式で確認できるようになっています。こうした自社製品限定の一覧は、使い慣れたメーカーの薬剤を中心に選定を進める場合に特に参照しやすい情報源といえます。ただし、いずれの一覧表もあくまで参考情報であり、実際に使用する際には農薬に貼付されたラベルで登録内容を必ず確認する必要があります。
空中散布を実施するために必要な法的手続きと義務
登録農薬の確認と並行して、航空法に基づく機体登録・飛行許可、都道府県への実施計画書提出といった手続きも必要になります。これらの詳細な手順は他の既存記事で扱っているため、ここでは要点のみを確認します。薬剤選定だけを済ませても、これらの手続きを欠くと適法な散布は実施できないため、両輪として押さえておく必要があります。
航空法に基づく機体登録、飛行許可・承認申請、およびリモートIDの搭載
無人航空機による空中散布は、航空法上「危険物の輸送、物件投下」に該当し、100グラム以上の機体登録とリモートIDの搭載が義務付けられているほか、国土交通大臣への飛行許可・承認申請が散布予定日の少なくとも10開庁日前までに必要です。手続きの詳しい流れは、農薬取締法とドローン散布の手続きを扱った既存記事で解説しています。
都道府県(福島県・茨城県等)への実施計画書および実績報告書の提出フロー
多くの都道府県では、空中散布を実施する前に実施計画書を、実施後には実績報告書を提出することが求められています。提出期限や様式は都道府県ごとに異なるため、実施予定の地域の農薬指導部局に個別に確認することが実務上の基本です。具体的な提出フローの例は、無人航空機による空中散布の違いを扱った既存記事で紹介しています。登録農薬の選定作業と並行してこうした地域ごとの提出物の準備を進めておくと、散布予定日直前になって手続きが間に合わないという事態を避けやすくなります。
飛行計画の通報と飛行日誌の作成・管理における遵守事項
特定飛行に該当する空中散布を行う際は、事前に飛行の日時・経路等を記載した飛行計画をドローン情報基盤システム(DIPS)の飛行計画通報機能で通報し、飛行後は飛行記録・点検記録を飛行日誌に記載して保存する義務があります。
安全ガイドラインの遵守と地域環境への配慮・リスク管理
登録農薬を正しく選定できても、周辺環境への配慮を欠けば安全な散布は実現できません。国・都道府県のガイドラインに沿った運用と、周辺への事前周知、事故時の対応体制を簡潔に確認します。薬剤の選び方だけでなく、散布時の周辺環境への影響まで含めて初めて、安全な空中散布が成立すると考えられます。
国および都道府県が定める安全対策指針に基づく農薬の適正使用と飛散防止
農林水産省は無人ヘリコプター用・無人マルチローター用それぞれの空中散布に係る安全ガイドラインを定めており、農薬の選定や飛散(ドリフト)防止対策の参考基準として位置づけられています。都道府県も国のガイドラインを踏まえた独自の安全対策指針を策定しています。
蜜蜂の飼育情報確認、公共施設および近隣居住者への事前周知と情報提供
実施区域及びその周辺に学校・病院等の公共施設、家屋、蜜蜂の巣箱、有機農業が行われているほ場等がある場合には、実施主体が居住者・施設管理者・養蜂家・有機農業に取り組む農業者等に対し、散布の日時・目的・使用農薬の種類・連絡先を十分な時間的余裕を持って情報提供することが求められます。
農薬事故や航空法上の重大インシデント発生時の緊急対応と報告体制
散布中の飛散・流出や機体の不具合などによって事故が発生した場合、実施主体は都道府県の担当窓口へ速やかに連絡し、事故報告書を提出する義務を負います。無人航空機に関する重大な事故やインシデントについては、DIPSを通じた国土交通省への報告も必要です。
実務における運用管理と実施後の機体メンテナンス
最後に、散布終了後の機体メンテナンスと日常的な運用管理について確認します。登録農薬を正しく選んでも、機体の管理を怠ればトラブルや薬害につながりかねません。薬剤選定から散布実施、事後のメンテナンスまでを一連の流れとして管理することが、継続的に安全な空中散布を実現するための基本です。
散布器具(タンク・ノズル等)の徹底した洗浄による薬剤残留と薬害の防止
散布終了後は、タンク・配管・ポンプ・ノズルといった散布器具に薬剤が残留しないよう、清水で複数回のすすぎ洗浄を行うことが基本です。特に異なる種類の薬剤を続けて散布する場合、洗浄が不十分だと薬剤の混入による薬害や、想定外の成分残留につながるおそれがあります。洗浄手順の詳細は、空中散布と除草剤を扱った既存記事でも紹介しています。
適切な機体点検とメンテナンスによるトラブルの未然防止と安全確保
無人航空機の飛行日誌の取扱要領に従い、定期的に機体の点検・整備を行い、点検・整備記録を作成することが求められます。散布装置についても、所定の吐出量において間欠的でないことなど、適正に散布できることを使用前に確認し、適時点検を行う必要があります。国土交通省へ報告される無人航空機の事故のうち、相当数が農薬散布中に発生しており、電線等への接触に起因するケースも確認されているため、飛行前の実地確認と危険箇所の共有が事故防止の要となります。登録農薬を正しく選定し、機体・散布装置を適切に維持管理するという両輪がそろって初めて、次のシーズンも安定した空中散布を継続できる体制が整うといえます。
まとめ
空中散布に使用する農薬は、農薬取締法上「無人航空機による散布」等として個別に登録されたものでなければならず、確認を怠ると適用外使用になるリスクがあります。稲・麦・大豆・野菜類といった対象作物ごとに登録されている薬剤は幅広く、有効成分や希釈倍数、剤型(水和剤・フロアブル・粒剤等)も製品によって異なるため、農薬登録情報提供システムやメーカー・卸売事業者が提供する一覧表を活用しながら、実際に使用する薬剤のラベルで登録内容を確認することが欠かせません。航空法上の機体登録・飛行許可、都道府県への実施計画書提出、安全ガイドラインの遵守といった手続き面は他の関連記事に譲りつつ、登録農薬の選定という起点をしっかり押さえることが、適法かつ安全な空中散布の第一歩になります。
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