ピーマンの尻腐れが夏に集中する理由——高温期の蒸散と灌水がカルシウム供給を決める

7月のハウスで、ピーマンのへたを持ち上げたとき、果実の先端に黒い変色を見つけた農家は少なくない。前日は異常なかったのに、今日の収穫分で10個出た。石灰は定植前に入れた。追肥も規定通りにやった。なのに毎年夏になると必ず出る。ピーマンの尻腐れは「カルシウムが不足している」という単純な話ではなく、高温という環境が水の動きを変え、その結果カルシウムが果実まで届かなくなる構造的な問題だ。施肥の前に、夏のピーマン圃場で何が起きているかを把握することが対策の出発点になる。

目次

ピーマンの尻腐れが高温期に集中する理由

ピーマンの尻腐れ果は5〜10月、とくに真夏(7〜9月)に集中して発生する。この時期は高温・強日射・土壌乾燥が重なり、ピーマン株が1日の中で最も大きな水分ストレスを受ける。尻腐れの発生ピークがこの時期に重なるのは、季節が夏だからではなく、夏という条件が「カルシウムが果実まで届かなくなるメカニズム」を加速させるからだ。

カルシウムは植物体内で蒸散流(木部を流れる水の動き)に乗ってしか移動できない。蒸散量が多い葉には優先的に供給され、蒸散をほとんどしない果実には後回しになる。気温が高いほど葉の蒸散は活発になり、葉への供給が増える分、果実への供給がさらに相対的に薄まる。施設栽培の閉鎖空間では換気が追いつかないと温度が40℃近くまで上昇することがあり、蒸散の加速が一気に起きる。

露地でも同じ構造は起きる。強日射と乾燥風にさらされた株は、午後には葉が一時的に垂れ下がるほどの水分ストレスを受ける。この状態ではカルシウムの果実への供給が数時間にわたって中断される。1日1〜2時間の中断が積み重なると、急速に肥大する果実の先端細胞はCa欠乏で壊死する。これが夏の尻腐れの正体だ。

カルシウムが届かなくなる仕組み

蒸散過多が水の流れを変える

葉の蒸散量は気温に比例して増加する。晴天の真夏日には、午前10時から午後2時の時間帯に蒸散が最大になる。この時間帯に土壌水分が不足していると、根の吸水速度が蒸散速度を下回る。根が吸い上げる水の量より葉が出す水の量が多くなる状態だ。

この状態では、木部(蒸散流)の水の流れが一時的に細くなり、カルシウムの輸送量も落ちる。カルシウムは師管(フロエム)を経由した再転流ができないため、木部の流れが止まると果実への供給がそのまま止まる。灌水を午後に行って水分を回復させても、その間に成長した果実先端の細胞はすでにCa不足の状態に入っている。高温期の尻腐れが午前中の管理と連動して出るのはこの構造によるものだ。

着果負担が重なるとさらに悪化する

ピーマンは1株から継続的に収穫する作物で、収穫期には株に20〜30個の果実が同時に着果していることがある。着果数が多いほど、果実全体へのCa需要の総量が増える。葉からの蒸散で運ばれるCaの量が一定である以上、着果数が多いほど1果実あたりの供給量は薄まる。

収穫ピーク期(7〜8月の旺盛期)に尻腐れが多発する背景の一つが、この着果負担とCa需要の関係だ。摘果によって着果数を意図的に絞ることが、高温期の尻腐れ予防に使われるのはこの理由による。農研機構が推奨する着果管理では、高温期は1株の着果数を通常の7〜8割程度に抑える指導が各地のJA資料に記載されている(推定・要確認)。

大型ピーマン(カラーピーマン・パプリカ)は、通常のピーマンより果実が数倍重い。果実が大きい分1果あたりのCa需要も高く、着果期間も長い(緑→黄・赤への変色まで60〜90日かかる)。この期間ずっとCaを果実先端まで安定供給し続ける必要があるため、大型ピーマン・パプリカは通常ピーマンより尻腐れのリスクが高い。高温期の管理を通常ピーマンと同じ感覚でやると大型種で先に問題が出やすい。

気づきにくい「収穫後の尻腐れ」——ポストハーベスト障害

ピーマン特有の問題として、「収穫時は正常に見えた果実が、収穫後1〜2日で尻腐れを発症する」という現象がある。ポストハーベスト生理障害と呼ばれ、収穫初期の5〜6月(株が若く果実の肥大が急速な時期)に特に発生しやすい。

この現象のメカニズムは、収穫前にすでに果実先端のCa不足が進行していたが、目視での症状が出るまで数日のタイムラグがあったことによる。収穫して茎から切り離された果実は、蒸散による水分と組織の代謝バランスが急変する。この刺激によって潜在していたCa欠乏が顕在化し、黒変として現れる。

農家として対策できるのは、収穫初期に「翌日の選果」を実施することだ。収穫した日に全量出荷するのではなく、一部を翌日まで静置して尻腐れの発症を確認してから出荷することで、クレームや廃棄混入を防げる。予防的には、収穫始めから2〜3週間は開花後10日前後の果実へのキレートカルシウム葉面散布を繰り返すことが効果的だ。

圃場診断:何を確認するか

土壌水分と灌水の均一性

尻腐れが出ている圃場で最初に確認するのは、灌水量と均一性だ。施設栽培では点滴チューブの詰まりや圧力不均一で、株によって受け取る水量に差が生じることがある。尻腐れが特定の列や場所に集中している場合、灌水系統のムラを疑う。各ノズルの流量を実測し、詰まりや閉塞がないかを確認する。

土壌水分は表層(5cm)と深層(20cm)で状態が異なることがある。表層が乾いているのに深層に水分が残っている場合、根が表層に集中していると深層の水分を利用できない。逆に過湿状態が続いている場合は根腐れが進んでいる可能性もある。土壌水分計(テンシオメーターなど)で高温期の最低でも1日2回の計測習慣をつけることが、現場での水管理精度を上げる最短ルートだ。

ピーマン栽培ではpF 2.0〜2.3が灌水開始の目安とされることが多い。pF 2.5を超えると根の吸水が制限され始め、Ca輸送が低下するリスクが上がる。ただし高温期は土壌水分の変化が速く、朝のpF計測値と午後の値が大きく異なることがある。朝の計測で問題なくても昼間に乾燥ストレスが起きているケースがあるため、午後2時ごろの葉の萎れ状態を毎日確認することで、数値だけでは見えない高温ストレスを補足できる。

葉の萎れ方で見る蒸散ストレスの度合い

午後2時ごろ、施設内でピーマンの葉が垂れ下がっている場合、株が水分ストレス下にある。この萎れが「夕方には回復する一時的な萎れ」なのか、「翌朝になっても完全に回復しない慢性的な萎れ」なのかで判断が変わる。一時的な萎れは高温による蒸散過剰で、灌水頻度の増加で対応できる。翌朝になっても回復しない慢性的な萎れは、根の吸水能力が低下している(過湿・根腐れ・高EC)可能性があり、対策の方向が変わる。

高温期の灌水管理と応急対策

灌水頻度と量のバランス

高温期の灌水は「1回の量を減らして頻度を増やす」方向に管理するのが基本だ。1日1回まとめて灌水するより、午前中に2〜3回に分けて灌水する方が、土壌水分の均一性を保ちやすい。根が常に一定の水分環境にいる状態が、蒸散流を安定させてCaの果実への供給を維持するために必要な条件だ。

施設の通路かん水(畝間に水を流す)は、単に土壌に水を補給するだけでなく、ハウス内の相対湿度を高めて葉の蒸散を抑制する効果がある。ハウス内の相対湿度が上がると気温上昇も緩和されやすく、蒸散過剰を物理的に抑えられる。高温期の午前中に通路かん水を実施することで、午後の蒸散ストレスのピークを下げる管理ができる。

葉面散布の正しいタイミング

葉面散布は予防に使う資材であって、すでに黒変した果実の回復には使えない。ピーマンの場合、開花から収穫まで20〜30日かかるため、この期間に果実先端のCa状態が決まる。高温期に入る直前(6月下旬)からキレートカルシウム製剤の定期散布を始めることが、7月の発症を減らす実践的な手順だ。

散布は朝(気温が25℃以下の時間帯)に行い、葉裏も含めて均一に散布する。葉の細胞がカルシウムを吸収する速度は夜間〜早朝に高まるため、夕方の散布でも吸収が期待できる。散布間隔は5〜7日ごとで、高温が続く期間は継続する。塩化カルシウムよりキレートカルシウムを使うことで、葉の有機酸との不溶性塩生成を避け、吸収効率を上げられる。

灌水水質と吸水効率——MOLECULEの実証から

夏のピーマン圃場で尻腐れが繰り返される背景の一つに、高温下での根の吸水効率の問題がある。水分が土壌に届いていても、根が実際にどれだけの速さでその水分を吸い上げられるかは、水の物理特性によって変わる。

水処理技術「MOLECULE(モレクル)」の計測データによれば、MOLECULE処理後の水は表面張力が通常水の72.8 mN/mから69.6 mN/mに低下する(https://arijics.com/molecule/evidence.html)。表面張力が下がると、微細な根毛への水の浸透速度が上がり、根圏全体への水の到達が均一になる物理的な効果が生じる。同サイトでは、プロトンポンプ(H⁺-ATPase)の活性化によるアクアポリン(水分子の細胞内通路)の透過性向上についても理論として提示されており、吸水効率の向上が根の表面積増大(山形県稲作で113.5%の収量記録)と連動した現象として報告されている。

高温期のピーマン栽培においてこの吸水効率の変化がCa輸送にどう影響するかについては、猛暑下のトマト実証実験(LOG 060: https://arijics.com/info/tomato-heat-stress-water-delivery/)のデータが参照できる。ピーマンとトマトは果菜類として根の吸水メカニズムに共通性があり、同様の水質改善効果がピーマンの高温期管理に適用できるかは現在検証中のテーマだ。

施設ピーマンで毎年高温期に尻腐れが出る圃場のうち、灌水設備・施肥設計を見直しても改善しない事例については、灌水水質という視点が次の検討対象として浮上する。

まとめ——夏の尻腐れは午前中の管理で決まる

ピーマンの尻腐れは、7〜9月の最高温度帯に確認されることが多い。その時間帯に株が水分ストレスを受けているかどうかが、その日の夕方に収穫する果実のCa状態を決める。石灰を入れることと、高温期に根が水を吸い続けられる環境を保つことは、全く別の課題だ。

対策の実行順序はこうなる。定植前の石灰施用でpH・塩基バランスを整える。高温期に入る前の6月下旬からキレートカルシウムの予防散布を始める。施設では通路かん水と換気で温度・湿度を管理し、蒸散のピークを緩和する。点滴の均一性を確認し、特定の株だけ乾いていないか定期的に確認する。収穫初期は翌日選果を習慣にしてポストハーベスト障害による出荷混入を防ぐ。

夏のピーマン圃場でどの株も尻腐れが出ない状態を維持するには、施肥設計よりも日々の灌水管理の精度が決定的な差をつける。

加えて「同じ圃場で毎年同じ場所に出る」パターンがある場合、灌水ムラ・換気不良・土壌EC上昇など圃場の構造的な問題が固定していることが多い。対症療法の葉面散布を繰り返すより、その固定した問題を特定して取り除く一回の投資の方が、3年分の廃棄ロスより安く上がることがほとんどだ。尻腐れが出るたびに摘み取るのをやめ、なぜその場所で出るのかを記録し続けることが、翌年以降の根本的な改善につながる。

参考文献

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

リンク

https://arijics.com/molecule
https://arijics.com/info

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