農地デジタル地図とは?eMAFF農地ナビの使い方と農地探し・集積への活用

農地デジタル地図とは、全国の農地区画をデジタルデータとして地図上に可視化したシステムの総称です。農林水産省が整備した「eMAFF農地ナビ」を中心に、ドローン・衛星・GISなどの最新技術を組み合わせた農地情報管理のデジタル化が急速に進んでいます。本記事では農地デジタル地図の基本概念・主要サービスの使い方・ドローンや衛星による高度化の動向・農業経営や農地集積への活用方法まで体系的に解説します。

目次

農地デジタル地図とは?基本概念と整備の背景

農地管理のデジタル化が農業政策の重要課題となっていますが、そもそも「農地のデジタル地図」とは何か、なぜ今必要とされているのかを整理します。

農地が「見えない」問題──アナログ管理の限界

日本には約440万ヘクタールの農地が存在しますが、長らくその管理は紙の台帳や手書きの地図を中心に行われてきました。市町村ごとにばらばらな形式で管理されているため、「全国にどこに農地があり、誰が所有・耕作しているか」という基本情報すら全国統一の形で把握するのが困難な状況でした。

農地の貸し借りを希望しても「どこに空いた農地があるかわからない」という問題が農業経営規模拡大の障壁となり、耕作放棄地の増加や農地の荒廃につながってきました。農地のデジタル地図化はこの「農地が見えない」問題を根本から解決するための取り組みです。

農地デジタル地図の定義と仕組み

農地デジタル地図とは、農地の区画・位置・面積・利用状況・所有者情報などを電子データとして地図システム上に格納・表示する仕組みです。紙の農地台帳や航空写真から取得した農地の輪郭データをGIS(地理情報システム)上に落とし込み、誰でもウェブブラウザから検索・閲覧できるようにしたものが代表的な形態です。

農地デジタル地図では単に地図上に農地の場所が表示されるだけでなく、農地番号・地目・面積・利用状況(作付中・遊休・荒廃など)・賃借の可否といった属性情報もあわせて管理されます。こうした多層的なデータの組み合わせにより、農地に関するあらゆる意思決定を地図ベースで行える環境が整います。

筆ポリゴンとは何か

農地デジタル地図を語るうえで欠かせないキーワードが「筆ポリゴン(ふでポリゴン)」です。筆ポリゴンとは、農地の一筆(ひとつの区画)の輪郭を多角形(ポリゴン)として表現したデジタルデータのことです。農地の形状をGIS上の座標データとして正確に記録したもので、面積・周囲長・重心座標などの計算が自動的に可能になります。

農林水産省が整備した筆ポリゴンデータは全国の農地を網羅しており、eMAFF農地ナビをはじめとする各種農業サービスの基盤データとして広く活用されています。ドローンの自律飛行ルート設定や施肥マップの作成など、精密農業の様々な場面で筆ポリゴンデータが活用されています。

eMAFF地図・eMAFF農地ナビの概要

農林水産省が農地デジタル地図の中核として整備しているのが「eMAFF地図」と「eMAFF農地ナビ」です。両サービスの位置づけと機能を整理します。

eMAFF地図(農林水産省地理情報共通管理システム)とは

eMAFF地図は農林水産省が運営する「農林水産省地理情報共通管理システム」の愛称であり、農地情報を一元的に管理・提供するためのプラットフォームです。農地の筆ポリゴンデータ・土地利用データ・農業用水路・農道などのインフラ情報を統合管理しており、農業者・行政担当者・研究者など多様な利用者が活用できる基盤システムとして機能しています。

eMAFF地図は農地の現況確認を現地で行うための「現地確認アプリ」とも連携しており、スマートフォンで農地の場所に行くと地図上の農地区画と現在地が重ね合わせて表示されます。農地の境界確認や現地調査に利用できる実用的な機能です。

eMAFF農地ナビ(旧:全国農地ナビ)とは

eMAFF農地ナビは旧「全国農地ナビ」の後継サービスとして農林水産省が提供する農地情報検索システムです。全国の農地の位置・面積・地目・利用状況・賃借の可否などを地図上で一覧検索できるサービスで、農業を始めたい方や農地を借りたい農業経営者が希望する条件の農地を探すために広く利用されています。

eMAFF農地ナビはアプリのダウンロード不要でウェブブラウザから利用でき、地図上での視覚的な検索と条件絞り込みによる検索の両方に対応しています。農地の一筆ごとに賃借の可否・面積・地目が表示されるため、農地を探す農業者にとって農地集積の第一歩となるサービスです。

eMAFF農地ナビが整備された目的と農地政策の関係

eMAFF農地ナビの整備は農林水産省が推進する農地集積・集約化政策と密接に関連しています。農業者の高齢化・後継者不足により農地の貸し出し・売却ニーズが高まる一方で、農地を借り受けたい担い手農業者が農地を探せないというミスマッチが問題となっていました。

eMAFF農地ナビは農地の貸し借りを希望する農業者が全国の農地情報を横断的に検索できる「農地版不動産情報サイト」として機能しており、農地集積・集約化の加速に貢献しています。農地中間管理機構(農地バンク)との連携も進められており、農地の流動化促進に向けた政策インフラとして重要な役割を担っています。

eMAFF農地ナビの使い方

eMAFF農地ナビは農地を探す農業者だけでなく、所有農地の管理や農地転用調査にも活用できます。主な使い方を解説します。

地図から農地を探す方法

eMAFF農地ナビのトップ画面からは「地図から探す」機能を利用できます。地図上で希望するエリアに移動すると、農地の筆ポリゴンが色分けして表示されます。賃借可能な農地・耕作されている農地・遊休農地などが色で区別されるため、借りられる可能性のある農地を一目で把握できます。

特定の農地をクリックすると、その農地の面積・地目・賃借の可否・担当農業委員会の情報などが表示されます。具体的に興味を持った農地については、表示された担当農業委員会または農地中間管理機構に問い合わせることで、賃借交渉を進められます。

条件から農地を探す方法

「条件から探す」機能では、都道府県・市町村・地目(田・畑・樹園地など)・面積範囲・賃借の可否といった細かい条件を指定して農地を絞り込めます。「○○県で田んぼを2ヘクタール以上借りたい」といった具体的なニーズに対応した検索が可能です。

検索結果は地図表示とリスト表示の両方で確認でき、複数の農地の位置関係を地図上で俯瞰することで、農地の集約化(連担化)を考慮した農地選定ができます。農業経営の規模拡大を計画する際には、地理的に近接した農地を複数まとめて確認できるこの機能が特に有効です。

農地転用前の調査への活用

農地転用(農地を農業以外の用途に転用すること)を検討する際にも、eMAFF農地ナビが役立ちます。転用対象の農地の地目・農用地区域への指定状況・農業振興地域の有無などを事前に確認することで、転用申請の可否の見当をつけることができます。

地図上での確認だけでは判断しきれない情報(所有者の情報など)については、最寄りの市町村農業委員会や農政窓口への問い合わせが必要です。eMAFF農地ナビはあくまでも事前調査のツールとして位置づけ、正式な手続きは行政窓口を通じて行うことが重要です。

ドローン・衛星によるデジタル地図整備の動向

農林水産省は農地デジタル地図のさらなる高度化に向けて、ドローンや人工衛星を活用した農地情報取得・地図更新の仕組みを検討しています。

農林水産省が検討するドローン・衛星活用の方向性

SMART AGRIの報道によると、農林水産省は農地情報の管理に「ドローンや衛星による『デジタル地図』の活用」を検討しており、農地情報の一元管理を目指す方針が示されています。従来の航空写真や現地調査に頼った農地情報の更新に比べ、ドローンや衛星を活用することで大幅な効率化とリアルタイム性の向上が期待されています。

農地の地形・形状は圃場整備や農地転用などによって随時変化するため、デジタル地図の継続的な更新が課題でした。ドローン空撮による高頻度・高解像度の農地データ取得と衛星データによる広域モニタリングを組み合わせることで、常に最新の農地情報を維持できる仕組みの構築が目指されています。

ドローン空撮による農地地図の高精度更新

ドローンを活用した農地地図更新では、UAV(無人航空機)に搭載したカメラやLiDARセンサーで圃場を上空から撮影・測量することで、従来の地図では反映されていなかった細かな区画変更や地形変化を迅速に地図データに反映できます。

特に圃場整備後の土地改良地区では、農地の区画が大きく変わるため既存の筆ポリゴンデータとのズレが生じることがあります。ドローン空撮による定期更新によってこのズレを最小限に抑えることができ、精密農業のための高精度な農地データ基盤の維持が可能になります。

衛星データを活用した農地利用状況の広域モニタリング

衛星リモートセンシングは、人工衛星から取得した光学画像やSAR(合成開口レーダー)データを活用して農地の利用状況を広域かつ定期的に把握する技術です。作物の生育状況・耕作の有無・圃場の土壌水分量などを衛星データから解析することで、耕作放棄地の早期発見や収量予測への応用が進んでいます。

農研機構や各都道府県の農業試験場では、GISと衛星リモートセンシングを組み合わせた農地・農業用水の利用状況マップ化事例の蓄積が進んでいます。これらの技術が農地デジタル地図システムと統合されることで、農地管理の精度と効率が飛躍的に向上します。

GIS・リモートセンシングの農地管理への活用

GIS(地理情報システム)とリモートセンシング技術は農地デジタル地図の中核をなす技術です。農業現場での具体的な活用方法を解説します。

GISとは?農地管理への応用

GIS(Geographic Information System)とは、地理的な位置情報と属性データを組み合わせて管理・分析・可視化するシステムです。農地管理においてGISを活用することで、農地の区画ごとの面積・土壌特性・過去の収量実績・農薬散布履歴などを地図上で一元管理し、空間的な分析が可能になります。

たとえば「土壌分析の結果が悪い圃場」と「収量が低下している圃場」を地図上で重ね合わせて表示することで、問題の集中エリアを視覚的に把握し、重点的な改善対策を立てることができます。農業法人や大規模農家では、複数の農地を一元管理するためのGISベースの農地管理ソフトウェアの導入が増えています。

リモートセンシングによる農地利用状況の把握

リモートセンシングは衛星・ドローン・航空機などから農地を遠隔観測する技術の総称です。多波長カメラで取得した反射光データから植生指数(NDVI)を算出することで、作物の生育状況や収量ポテンシャルを圃場単位でマップ化できます。

農研機構が公開している事例では、GISとリモートセンシングを組み合わせて農地・農業用水の利用状況をマップ化し、耕作放棄地の分布や水管理の効率化に活用する手法が報告されています。こうした取り組みが農地デジタル地図の高度化に直結しています。

AgencyMAPなど民間農地地図情報システムの活用

農地デジタル地図の活用は行政サービスにとどまらず、民間のITソリューションにも広がっています。ユニオンデーターシステム株式会社が提供する「AgencyMAP(農地地図情報システム)」は、農地地図データを活用した農地管理業務のデジタル化を支援するシステムです。

こうした民間システムでは、農業委員会の農地台帳管理・農地パトロール記録の電子化・農地賃借契約書の作成支援など、農地管理に関わる行政業務や農業法人の管理業務を一元的にデジタル化できます。eMAFF農地ナビと連携したデータ活用も可能で、農地情報の二重入力を防ぎながら業務効率を高められます。

農地デジタル地図がもたらすメリット

農地デジタル地図の整備・活用は農業者・行政・農業政策の三者に明確なメリットをもたらします。

農業者のメリット:農地集積・賃貸借の効率化

農業者にとって農地デジタル地図の最大のメリットは、農地を探す・貸す・借りるプロセスの大幅な効率化です。eMAFF農地ナビを使えば全国の農地情報をオンラインで検索できるため、地元の農業委員会や農地バンクに何度も問い合わせる手間が省けます。農地の連担化(隣接した農地をまとめて管理する)を念頭に置いた農地選定も地図上で直感的に行えます。

また、ドローンによる農地空撮データを活用することで、農地購入・借り受け前に現地に行かなくても農地の状態を詳しく把握できるようになりつつあります。農業経営の規模拡大を計画する農業法人や新規就農者にとって、農地デジタル地図は経営戦略策定の重要ツールとなっています。

行政のメリット:農地管理業務のデジタル化による効率化

市町村農業委員会にとって農地デジタル地図の導入は、農地台帳管理・農地パトロール・農地転用審査といった業務のデジタル化・効率化を意味します。紙の台帳への手書き記録や現地調査報告書の手作成が不要になり、システム上でのデータ更新に置き換えられます。

農地の利用状況の変化(耕作放棄地の発生・農地転用の完了など)をデジタル地図上でリアルタイムに反映・共有できることで、農業委員会間・農政局間の情報連携も円滑になります。農地情報のデジタル化は行政の人員不足が深刻化するなかで農地管理業務を持続可能にするための基盤整備です。

農業政策のメリット:農地情報の一元管理による政策効果の向上

農地デジタル地図の整備によって全国の農地情報が統一フォーマットで一元管理されることで、農業政策の立案・実行・評価の精度が向上します。耕作放棄地の分布把握・農地集積の進捗モニタリング・農業振興地域の設定見直しなど、エビデンスに基づく政策決定が可能になります。

気候変動への適応策としての農地利用転換(水田からの転作推進など)においても、農地デジタル地図は土地条件・水利条件・転作実績などのデータと組み合わせることで、最適な転換先農地の選定を科学的に行うための基盤として機能します。

農地デジタル地図の課題と今後の展望

農地デジタル地図の整備は着実に進んでいますが、本格的な活用に向けてはまだいくつかの課題が残っています。

データ更新・精度維持の課題

農地は農業経営の変化・圃場整備・農地転用などにより区画や利用状況が常に変化するため、デジタル地図データの継続的な更新が不可欠です。しかし更新作業には人手と費用がかかるため、特に小規模市町村では最新データの維持が難しいという課題があります。

この課題を解決するためにドローン・衛星による自動更新や、農業者自身がスマートフォンで農地情報を報告できる参加型更新の仕組みが検討されています。データの鮮度と精度の維持は農地デジタル地図の信頼性を確保するうえで中長期的な取り組みが必要な課題です。

セキュリティ・個人情報保護への対応

農地デジタル地図には農地の所有者情報・利用状況・賃借条件など個人の財産に関わる情報が含まれています。このデータが不正アクセスや情報漏洩によって悪用されるリスクへの対策として、アクセス権の適切な管理・データの暗号化・利用者の認証強化が求められます。

一般公開情報と行政・農業者向けの詳細情報を適切に分離し、閲覧できる情報の範囲を利用者の属性に応じて制御する仕組みの整備が進んでいます。農地デジタル地図の利便性と個人情報保護のバランスをどう取るかは、今後も継続的な議論が必要なテーマです。

スマート農業・農業DXとの統合による将来像

農地デジタル地図の最終的な姿は、農機OpenAPI・WAGRI・eMAFFなどの農業デジタルインフラと完全に統合された「農業デジタルツイン」ともいえる環境です。農地の空間情報・気象データ・土壌データ・農機稼働データ・収量データが地図上で一元的に管理・可視化されることで、農業者がより精密で科学的な農業経営を行える基盤が整います。

農地デジタル地図とAI技術の組み合わせにより、圃場ごとの最適な作付け計画・施肥設計・収量予測が自動的に提案される未来が近づいています。農地デジタル地図はスマート農業・農業DXの「地図基盤」として、これからの日本農業の根幹を支えるインフラになるでしょう。

まとめ:農地デジタル地図の活用で農業経営と農地管理を変革する

農地デジタル地図は、eMAFF農地ナビ・筆ポリゴン・GIS・ドローン・衛星データを組み合わせて農地情報を可視化・一元管理する農業DXの基盤インフラです。農業者の農地探し・集積・管理の効率化から農地政策のエビデンスベース化まで、幅広い価値を生み出しています。

農地デジタル地図を実際の農業経営に活かすための3ステップを提案します。

ステップ1:eMAFF農地ナビで自分の農地と周辺農地を確認する まずeMAFF農地ナビにアクセスし、現在耕作している農地の位置・面積・地目をデジタル地図上で確認しましょう。周辺の貸借可能農地の状況も把握することで、農地集積の可能性を地図ベースで検討できます。

ステップ2:現地確認アプリでスマートフォンでの農地管理を始める eMAFF地図の現地確認アプリをスマートフォンに入れることで、農場での作業中でも現在地と農地区画を照合しながら管理できます。農地の境界確認や現地状況の記録に活用しましょう。

ステップ3:GISベースの農地管理システムの導入を検討する 農地面積が大きくなってきたら、AgencyMAPなどのGISベース農地管理システムの導入を検討します。農地台帳・作業記録・農薬使用記録を地図と連携して管理することで、補助金申請・GAP認証・農地賃借管理などの事務作業を大幅に効率化できます。

参考文献

  • 農林水産省「農林水産省地理情報共通管理システム(eMAFF地図)について」
  • 農林水産省「eMAFF農地ナビ(農地情報検索システム)」公式サイト
  • 農林水産省「農地中間管理機構(農地バンク)」公式サイト
  • 農林水産省「筆ポリゴンデータのオープンデータ化について」

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

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