根が張らない。定植後に苗が立たない。収量は出るが品質が安定しない。同じ圃場で毎作まったく同じ症状が繰り返される。こうした農家が「水管理を見直した」「堆肥を増量した」「追肥を増やした」を繰り返しても改善しないケースがある。改善しない場合は、根が伸びられない原因のカテゴリ自体がそもそも間違っている可能性が高い。
根の伸長を妨げる要因は大きく4つに分かれる。物理的な阻害(土壌が硬くて根が入れない)、水分による阻害(過湿・酸欠で根が機能しない)、化学的な阻害(pHや養分のバランスが乱れて吸収できない)、温度による阻害(地温の高低で根の代謝が止まる)だ。
多くの農家が真っ先に手をつける「堆肥投入」や「灌水管理の改善」は、問題が化学性か水分管理にある場合にしか効かない。物理的な耕盤層が根の伸長を妨げている場合は、どれほど有機物を入れても根は耕盤層の深さ以下に伸びない。診断なしの対策は費用と手間を無駄にするだけでなく、施肥過多による塩類集積など新たな問題を生む。
この記事では、農林水産省資料(小麦の多収阻害要因実態調査)、マイナビ農業(保土谷化学工業アグロ推進事業部の知見)、全農情報誌Apronの監修データをもとに、4つの原因カテゴリの診断手順と、物理→水分→化学の対策の優先順位を示す。野菜・畑作を問わず、根域の問題に悩む農家に向けた内容だ。
根が張らない原因——4つのカテゴリ
物理的阻害:土が硬くて根が入れない
作土層(毎作耕している15〜20cm程度の層)の直下に、農機の重量で踏み固められた耕盤層が形成されていると、根はその硬い層より深く入れない。農水省資料(農林水産省:小麦の多収阻害要因実態調査)によれば、根の伸長が妨げられる土壌硬度の目安として、「貫入硬度計で1.5MPa以上、プッシュコーン・山中式土壌硬度計で21mm以上」が示されている。25mm以上・2.5MPa以上になると根がほぼ入らないとされる。
物理的阻害がある圃場の特徴として、根がロータリーで耕している深さ(10〜12cm程度)より下にほとんど伸びていない状態が挙げられる。埼玉県の現地調査(鎌田ら2018、土肥誌89:237-242)では、低収圃場は多収圃場に比べて硬い層が浅い位置にあり、土壌が過度に乾燥していることが確認されている。
水分と酸素の問題:根が酸欠で機能しない
土の中に水が滞留すると、酸素が失われる。保土谷化学工業アグロ推進事業部の知見(マイナビ農業、2021年)によれば、酸素不足で根が酸欠状態になると、代謝に必要なエネルギーをつくることができず、土壌から養分・水分を吸収する機能が低下して根腐れやなり疲れに陥る。
酸素が失われやすいシーンは3つある。①粘土質・砂質などの土が締まりやすい圃場、②水田転換畑や冠水しやすい圃場、③未熟堆肥を施用した場合だ(詳細は後述)。
水が多すぎると根が「水を探して伸びる」行動をとらず、表面近くにしか根が育たない問題も起きる。反対に、乾燥が強すぎると植え付け直後の苗根が活着できずに枯れる。どちらも「根が張らない」として現れる。
化学的問題:pH・養分バランスが根の吸収を妨げる
農水省の調査では、pHが5.5未満になると多収が難しくなることが確認されている。酸性土壌では、アルミニウムや鉄が溶出して根の先端を傷め、リン酸の吸収効率も著しく下がる。
有効態リン酸が10mg/100g未満、交換性カリが15mg/100g未満では、それぞれ根の発育や植物体の水分調節に支障が出る。ただし農水省のデータが示すように、化学性の問題は物理性や水分の問題がクリアされていないと診断が難しい——硬い層や過湿が原因で養分が吸収できない状態を「化学性の問題」と誤診するケースがある。
温度の問題:地温の高低で根の代謝が止まる
地温が低すぎると根の活動が鈍くなり、水分・養分の吸収効率が落ちる。春先の定植直後や秋末の低地温期がこれに当たる。一方、真夏に地温が30度を超えると根の働きが弱まり、高温に強い有害菌が土中で増加する。地温の問題は単独で起きるケースより、物理的問題や水分問題と複合して発生することが多い。
物理的阻害の診断——専用器具なしで確認する手順
土壌硬度の正確な測定には貫入硬度計やプッシュコーンを使うが、専用器具がない場合も簡易診断は可能だ。農水省資料では以下の方法が示されている。
方法① ファイバーポール・鉄ピン(直径5mm程度)で押し込む
- 片手で軽く入る→根が良く伸びる(貫入硬度1.5MPa未満)
- 両手で力を入れると入る→根張りが悪くなる(1.5〜2.5MPa)
- 両手でも入らない→根がほぼ入らない(2.5MPa以上)
方法② 深さ30〜40cmの穴を掘り、断面を指先で押す
- 第1関節くらい入る→根が良く伸びる
- 少しへこむ程度→根張りが悪くなる
- 傷が少し付く程度〜付かない→根がほぼ入らない
複数の箇所で調べ、問題がありそうな場所を掘って確認する。根が伸長できない硬い層が地表から20cm以内の浅い位置にある場合と、20cmより深い位置にある場合では対策が変わる。
硬い層が20cmより浅い場合
ロータリーによる通常の耕起で十分に破砕できる範囲だ。ただし湿った状態での機械作業は土壌の圧密化を助長するため、圃場が乾燥した状態で耕起する。合わせて有機物の投入で団粒構造の形成を促し、孔隙を増やす。農水省データでは、牛糞堆肥を1〜2t/10aで施用することで土壌の孔隙率が増加する効果が確認されている。
硬い層が20cmより深い場合
サブソイラーやプラソイラによる心土破砕・耕盤層破砕が必要だ。適切な施工で根域が20cm以下に拡大し、地下の養分・水分を吸収できるようになる。前キューの記事(「排水 悪い 畑」)でも詳述しているが、心土破砕は排水改善と根域拡大の両方に効く対策だ。
水分と酸素——根が酸欠になる3つのシーン
粘土質・砂質の締まりやすい圃場
粘土質の土壌は粒子が細かく空気を通しにくく、少量の雨でも過湿状態になりやすい。一方、砂地は排水性が高い反面、灌水を繰り返す作物(イチゴ・キュウリ等)の栽培では土が締まりやすく、土壌の酸素不足が顕著になってなり疲れを引き起こす。
こうした土質の圃場では、定植前に土壌中に酸素を供給できる過酸化カルシウム系資材を元肥として施用することで、条件の悪い土でも根張りを促せる。過酸化カルシウムは水と反応して約3か月間酸素を発生し、残留物として消石灰が残るためpH上昇の副次的効果もある。
水田転換畑・冠水しやすい圃場
水田を転換した農地は、もともと「水を通さない」ために管理されてきた土壌であり、排水性が構造的に低い。長雨や集中豪雨による冠水が起きると、土の中に水が滞留して酸素が失われ、根腐れに直結する。
備えとしては元肥で酸素供給資材を施用し、応急処置としては液体型の過酸化水素系資材で根の回復を図る選択肢がある。根本的な解決には前項(排水 悪い 畑)で述べた排水工事(明渠・補助暗渠)が必要だ。資材での対応は排水工事の代替ではなく、工事が完了するまでの経過措置と位置づけることが重要だ。
未熟堆肥が引き起こす酸欠
土壌改良に使う堆肥も、条件によっては根が張らない原因になる。未熟堆肥の場合、堆肥中の有機物を分解する好気性微生物が土壌の酸素を大量に消費し、土壌が嫌気状態になる。その結果、硫化水素などの有毒ガスが発生して根の生理障害を引き起こす。
完熟堆肥や有機肥料でも同様の酸素消費は緩やかに起きるため、栽培期間が長い作物では継続的な酸素の供給が必要になる。また、堆肥を多用する圃場では微生物による有機物分解に伴う酸素消費を前提とした管理が必要だ。
化学性の問題——pH・リン酸・カリの診断
根が張らない場合に土壌分析を行うと、しばしばpHや養分のバランスが基準値から外れていることがある。ただし農水省の調査が示すように、「ある養分が少なくなるほど低収になる」という単純な相関は実際には出にくく、物理性・水分の問題が解消されていない状態では化学性改善の効果が表れにくい。
pH5.5が根張りの分岐点
農水省調査では、pHが5.5未満になると小麦・大麦ともに収量が明確に低下する傾向が示されている。多くの野菜でも弱酸性〜中性(pH5.5〜6.5程度)が根の発育に適切な範囲とされる。酸性土壌では石灰施用でpHを矯正するが、施用量は土壌分析値に基づいて決定する必要がある。石灰の過剰施用はマグネシウム欠乏やカリ吸収阻害を引き起こすため、「石灰をたくさん入れれば安心」という対応は逆効果になることがある。
リン酸・カリの適正値
農水省の目安では、有効態リン酸は黒ボク土以外で10〜75mg/100g、交換性カリは15〜20mg/100g以上が基準値の下限とされる。リン酸が不足すると根の発育が直接的に阻害される。カリが不足すると気孔の調節機能が低下し、水分ストレス時に根が機能しやすい環境が崩れる。
分析値が基準値を下回っている場合は、資材を追加投入する。ただし前述のとおり、物理性・水分が改善されていない状態での施肥は吸収されないまま圃場に残存し、塩類集積の原因になる。診断と対策の順序を守ることが、投入コストの節約にもなる。
対策の優先順位——何から手をつけるか
複数の原因が絡み合っているケースが多いが、対策の優先順位は以下の順番が基本だ。
第一優先:物理性の改善
硬盤層・耕盤層がある場合はまずこれを解消する。根が物理的に伸びられない状態で水分・化学性を調整しても効果は出ない。心土破砕→排水改善→有機物投入の順で物理性を整える。
第二優先:水分・酸素の管理
物理性が整ったら水分管理を見直す。過湿の場合は明渠・暗渠施工。乾燥が問題の場合は灌水タイミングの修正。灌水開始が遅れると定植直後に根が活着できず、後から灌水を正しくしても取り返せない。
第三優先:化学性の調整
物理性と水分が整った状態で土壌分析を行い、pH・リン酸・カリを基準値に近づける。化学性の調整は土壌分析なしの感覚施用で行わない。分析値を持たずに「とりあえず石灰を入れる」「追肥を増やす」という対応は問題を悪化させるリスクがある。
地温対策:物理・水分・化学対策と並行して行う
地温が低い時期の定植はマルチシートで地温を確保する。高地温期はわら敷きや遮光ネットで30度超えを防ぐ。地温対策は他の3つの対策と並行して実施できるため、最初から組み込んで計画する。
土壌の水環境と根張りを根本から変える視点:MOLECULE水処理技術
物理・水分・化学・温度の4要因を整えた上で、さらに根張りの質を変えたいと考える農家に向けて、水そのものの性質に着目したアプローチがある。
株式会社ARIJICSが取り組むMOLECULE(モレクル)水処理技術は、水分子の構造に働きかけることで土壌や作物への水の浸透・利用効率を変える試みだ。排水改善や心土破砕で物理環境を整えた後、水の質的な管理を加えることで、根域の水分環境をさらに整える可能性がある。
- MOLECULE公式: https://arijics.com/molecule/index.html
- 実証実験データ: https://arijics.com/molecule/evidence.html
まとめ:診断の順序が対策の効率を決める
根が張らない問題を「とりあえず堆肥を増やす」「水やりを見直す」で解決しようとすると、原因が物理性にある場合はまったく効果が出ない。
診断の手順はシンプルだ。まずスコップとファイバーポールで土壌硬度を確認し、硬盤層の有無と深さを確認する。硬盤層があればサブソイラー施工を計画する。次に圃場の水はけと土壌水分の状態を確認する。過湿なら明渠・暗渠を整備する。そのうえで土壌分析を行い、pHと主要養分を基準値に近づける。地温対策はこれらと並行して行う。
この順序で対策を積み上げると、一つ一つの効果が次の対策の効果を高め合う。逆に順序を飛ばすと、コストをかけた対策が次の問題に吸収されて見えなくなる。
根張り改善を長期的に維持するために
物理・水分・化学・温度の4要因を一度改善しても、管理を変えなければ翌作以降に同じ状態が戻る。特に物理性は大型農機の走行で毎作少しずつ耕盤層が形成・深化していく。
農水省資料では「湿った状態での機械作業は土壌の圧密化を助長するため、無理な作業を避けることが重要」と明記されている。排水対策→圃場の乾燥確認→耕起という順序を習慣化することで、毎作ごとの耕盤層の形成を最小化できる。
また、緑肥の鋤き込みも有効だ。根が深く伸びる緑肥作物(ひまわり、ソルゴー、大根型の深根性緑肥等)を前作に組み込むと、根が通った孔道が次作の根の経路になる。農水省は「作物残渣や緑肥の鋤き込みも積極的に行う」ことを推奨し、鋤き込みから3〜4週間の腐熟期間をおいてから播種するよう示している。
有機物の連用は団粒構造の形成を促し、水はけと保水性を両立した根張りしやすい土に変えていく。単年の施用で劇的な改善を期待するより、3〜5年のスパンで土壌の物理性を変えていく視点が現実的だ。
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