青果物のパレット化率は「59.4%」「68.3%」「11型1割未満」など、引用される数値が文脈によって変わる。指標の定義と調査主体が違うためで、誤った数値を前提に投資判断を進めると現場で齟齬が起きる。本記事では農林水産省「パレット化率把握のための卸売業者向けアンケート」(令和5年9月)と「食品流通段階別価格形成調査」(令和4年度)など一次情報をもとに、青果物パレット化率の定義の整理、集出荷段階と荷受け段階の数値、品目別・地域別・季節別の格差、2030年度80%目標までの距離、改善レバーまでをデータ目線で読み解く。
青果物パレット化率はどう測られているか
「青果物パレット化率」という言葉は同じでも、誰が何を分母に集計したかで数値が大きく変わる。集出荷側で測るのか、荷受け側で測るのか、パレット全体か11型に限定するのかで、20ポイント以上の差が生じる。3つの代表的な指標を切り分けて理解することが、データを使う側の最低限の前提となる。本セクションでは農水省・国交省の主要3指標を整理する。
集出荷段階の指標(食品流通段階別価格形成調査)
農林水産省「食品流通段階別価格形成調査」は、令和4年度の調査対象者を分母に、集出荷団体が青果物卸売市場に出荷した品目ごとの出荷量のうち、パレットを使用して出荷した出荷量の割合を集計する指標。これにより青果物全体59.4%、野菜64.9%、果実21.1%という代表値が得られている。出荷側の視点で、産地のパレット化進度を反映する指標である。
卸売業者の荷受け段階の指標
農林水産省「パレット化率把握のための卸売業者向けアンケート」(令和5年9月、回答199社、集計対象は年間取扱高100億円以上の73社)は、卸売業者が荷受けした荷物全体の数量を分母に、パレット積み荷物の割合を集計する指標。全国平均は春期68.3%、夏期73.9%、秋冬期71.8%で、季節変動は地域単位では見られても全国単位ではほぼ無い。荷受け側の指標として産地と微妙にずれる点が重要だ。
標準仕様パレット化率(質的指標)
3つ目の指標が「11型パレット化率」で、パレット化された貨物のうち1,100×1,100mm規格(T11型)が占める割合を測る。国土交通省「農産物等の物流標準化に関する取組について」(2024年11月)は標準仕様パレット化率を「1割未満」と推定。同じ卸売業者アンケートでは「荷受けしたレンタル又は所有パレット積み荷物のうち11型パレット積みの割合」が春期37.6%・夏期40.9%・秋冬期48.5%とより細かく集計されている。
集出荷段階:野菜64.9%、果実21.1%、品目別の格差
集出荷段階で見ると、青果物全体の59.4%という代表値の裏側には、野菜と果実のあいだの大きな格差、そして品目ごとの2桁開く格差が広がっている。投資判断はこの内訳まで掘り下げないと意味を持たない。同じ「パレット化率59.4%」を聞いても、ハクサイ生産者とリンゴ生産者では取り組むべき施策がまるで異なるためだ。本セクションでは野菜・果実の全体像と高低の品目別パターンを順に整理する。
青果物全体59.4%、野菜64.9%、果実21.1%
調査対象16品目を集計すると、青果物全体は59.4%、野菜(調査対象14品目)64.9%、果実(調査対象2品目:みかん、りんご)21.1%。野菜と果実の差は約44ポイントもあり、果実は依然として手詰めの定数詰めが主流で、出荷形態の違いが数値差に直結している。
高パレット化率の品目(80%以上)
野菜の中でも、はくさい99.4%、ほうれんそう94.9%、きゅうり90.3%、ねぎ87.3%、さといも80.3%は80%以上の高い水準。重量野菜や大量出荷品目、大箱出荷が主流の品目でパレット化が定着している。これらの品目は、産地・市場・物流事業者の間でパレット運用が事実上の標準として機能している。
低パレット化率の品目(50%未満)
一方、たまねぎ33.5%、ばれいしょ31.8%、みかん26.7%、なす49.7%、トマト50.7%、りんご6.0%は50%以下に留まる。りんごは定数詰めの果実箱が主流で、パレットでの出荷は実証段階。たまねぎ・ばれいしょは重量物だが、大型ばら積みと小ロット出荷が混在することで、パレット運用への切り替えが遅れている。
卸売業者荷受け段階:68.3-73.9%という別軸の数値
卸売業者の荷受け段階のパレット化率は、集出荷段階より高い水準で推移する。出荷側のロット集約と市場側の効率化要請の両方が反映され、産地段階より一段高い数値が出る構造である。市場側で展開する貨物の半分以上がパレット積みになっており、ここから先の場内物流改善が次の論点になる。本セクションでは全国平均・地域別・回答数の多い大消費地の数値を順に確認する。
全国平均と季節変動
令和4年度の全国平均(年間取扱高100億円以上の卸売業者73社の平均)はパレット使用率68.3%(春期4〜6月)、73.9%(夏期7〜9月)、71.8%(秋冬期10〜3月)。全国単位の季節変動は5ポイント程度で、夏期がやや高い傾向。卸売市場では収穫期に貨物量が増えるため、効率化のためにパレット運用が増えるという解釈が成り立つ。
地域別の大きな格差
地域別では北陸が春期97.5%・夏期100%・秋冬期100%と圧倒的に高く、九州も春期95%・夏期78.7%・秋冬期76.2%と高水準。一方、東北(春期71.2%、夏期48.7%、秋冬期51.5%)と中国(全季58%)は低い。回答数が偏る(北陸4社、中国1社)点に留意は必要だが、地域ごとに産地構造とパレット運用の浸透度が大きく異なることが示唆される。
関東・近畿・東海の中央値
回答数の多い関東(14社)、近畿(19社)、東海(16社)は、おおむね70%前後で安定している。関東は春期73.6%・夏期77.0%・秋冬期76.7%、近畿は春期70.0%・夏期74.7%・秋冬期74.7%、東海は春期66.3%・夏期75.9%・秋冬期68.3%。大消費地に近い卸売市場ではパレット運用がほぼ定着しており、ここの改善余地は質(11型構成比)へ移っている。
11型パレットの構成比:4〜5割という質的ギャップ
パレット化率が一定水準に達した次に問われるのは、規格の統一性、つまり11型(T11型、1,100×1,100mm)の構成比である。ここに大きな質的ギャップが残っている。「パレット化はしたが半分以上が11型ではない」状態は、物流拠点での積み替えや混在運用を強いられる原因となり、生産性向上の効果を半減させる。本セクションでは11型構成比の現在地と地域格差を整理する。
卸売業者アンケートの11型構成比
卸売業者向けアンケートでは、荷受けしたレンタル又は所有パレット積み荷物の数量を100%としたときの11型パレット積みの割合を「11型パレット使用率」として測定。全国平均で春期37.6%、夏期40.9%、秋冬期48.5%である。「パレット化はされているが半分以上が11型ではない」状態が現在地で、市場では複数規格が共存しているのが実態だ。
国交省推定「標準仕様パレット化率1割未満」との整合
国土交通省「農産物等の物流標準化に関する取組について」(2024年11月)は青果物の標準仕様パレット化率を「1割未満」と推定している。これは荷物全体に対する11型割合で、卸売業者アンケートの「パレット内構成比」と分母が異なる。荷物全体ベースでは「パレット使用率70%×11型構成比40%=11型割合28%」程度になりそうだが、実証データの不足や出荷側の状況を加味すると「1割未満」という推定値に収れんする面もある。
関東・九州が11型先行、東北が後発
地域別の11型構成比を見ると、関東(春期54.9%・夏期59.3%・秋冬期60.6%)と九州(春期53.1%・夏期52.5%・秋冬期53.7%)が高い水準で、東北は春期10.0%・夏期10.0%・秋冬期22.5%と大きく後れる。関東・九州は大消費地への大量出荷と量販店ニーズに合わせて11型化が進んだが、東北は産地特性と既存パレット資産の影響で切り替えが進んでいない。
レンタル・所有・規格別の重層構造を読み解く
パレット運用を真に効率化するには、パレット化率の数値だけでなく、レンタル・所有・規格別の構造を把握する必要がある。卸売業者アンケートはこの三層構造を明示的に集計しており、政府KPIとして掲げられたレンタル比率の倍増目標と照らし合わせることで、業界が向かう方向性と現在地のギャップが明確になる。本セクションではレンタル比率と地域差を整理する。
レンタルプラスチックパレット使用率は1割未満
レンタルプラスチックパレット使用率(荷物全体に占めるレンタル方式の割合)は全国平均で春期4.6%、夏期7.2%、秋冬期8.4%。10%にも届かない水準で、パレットの多くが荷主・物流事業者の所有方式で運用されていることを示す。「使ったら戻す」サイクルが社会全体で動いていないため、回収コストや管理負担が個社に集中する構造になっている。
関東はレンタル比率が高い
地域別ではレンタルプラスチックパレット使用率も関東が春期11.1%・夏期14.5%・秋冬期15.6%と相対的に高い。北海道(夏期20.0%・秋冬期11.0%)も突出しているが、回答1社の代表性は限定的。関東はT11型レンタル方式の浸透度が他地域より高く、共同プラットフォーム化の素地が形成されつつある。
国交省2030年KPIとの距離
国土交通省パレット標準化推進分科会の最終とりまとめ(2024年6月)は、2030年度KPIとして「レンタルパレット保有数量2,650万枚→5,000万枚以上(倍増)」「共同回収拠点42箇所→400箇所以上(約10倍)」を掲げる。レンタル比率1割未満からの倍増には、所有パレットからレンタル方式への切り替えが業界全体で進む必要があり、製造・所有・運用の構造転換が問われる。
2030年80%目標までの数値的距離
農林水産省は青果物パレット化率を2030年度80%以上にする目標を掲げる。現状値からのギャップを年率換算すると、毎年4ポイント超の改善が必要となる難度が見えてくる。さらに数量ベースの目標と並行して、11型構成比という質的目標も同時に追わなければ意味のあるパレチゼーションは実現しない。本セクションでは集出荷段階・果実分野・質的目標の3つの観点から距離を測る。
集出荷段階で必要な改善ペース
青果物全体59.4%(令和4年度)から2030年度80%への到達には、約20.6ポイントの改善が必要。残り期間を6〜7年と見積もると、毎年3〜4ポイントの改善ペースが要る。これまで10年単位で動いてきた標準化の進度から見ると、明らかに加速が必要な水準である。
果実分野の20%台からの脱却
果実21.1%は2030年80%まで約59ポイントの開きがある。みかん26.7%、りんご6.0%という現状値から見ると、果実分野のパレット化率向上には品種・産地・選果場の根本的な再設計が必要。JA全農長野(りんご・なし)、日園連(不知火)などの実証試験が積み上がりつつあるが、業界全体に普及する速度をさらに上げる必要がある。
質的目標としての11型構成比
数量ベース80%という量的目標と並行して、11型構成比の引き上げという質的目標も達成する必要がある。卸売業者アンケートでパレット内の11型構成比が40%台ということは、80%パレット化×半分が11型=32%の11型化率に留まる計算になる。「数量はパレット化したが規格はバラバラ」では一貫パレチゼーションが実現しないため、量と質の両方を同時に追う必要がある。
パレット化率を上げる4つの実装レバー
パレット化率の引き上げは、補助金とガイドラインだけでは進まない。産地・卸・物流・小売の協議体制と、実装の具体策が伴って初めて動く。すでに先行事例で効果が確認されたレバーを再現する形で水平展開することが、限られた残り年数で目標達成する現実的な道筋になる。ここでは数値改善に直結する4つの実装レバーを整理する。
レバー1:選果場改修との同時切替
JA熊本市の事例(かんきつ選果場で11型適合の選果レーンとロボットパレタイザーを導入、段ボールサイズ10kg→8kgへ変更)は、選果場改修のタイミングで11型に揃える典型例。選果場は10〜20年に一度の大規模投資で、ここを逃すと次のチャンスが大幅に遅れる。農水省「物流生産性向上設備・機器等導入事業」と組み合わせると、改修コストの大幅圧縮が可能。
レバー2:レンタル方式への移行
所有パレットの管理負担が個社に集中している現状を、レンタル方式に切り替えることでパレット化のハードルを下げる。国土交通省「労働力不足に対応するための標準仕様パレットの利用促進支援事業」は、自社パレットの処分費用、ラック、フォークリフト、パレタイザーの処分費用も補助対象に含めており、所有資産からの切り替えコストを軽減する。
レバー3:産地リレーでの規格統一
青果物の産地リレー(季節ごとに産地が切り替わる構造)の中で、リレーする各産地が同じ11型・段ボール規格を使うことで、卸売市場側の受入オペレーションを単純化できる。全農の主要野菜14品目向け「段ボール箱標準化ガイドブック」は、産地リレーを意識した品目別ガイドブックで、産地共同で規格を揃える基盤になる。
レバー4:場内物流改善推進体制との接続
2024年11月時点で39市場が場内物流改善推進体制を構築済み。市場側で11型パレット運用の体制ができれば、産地側も切り替えの障壁が下がる。市場のパレット管理ルール、レンタルパレット回収率の算出、産地への流通普及活動を一体で進めることで、地域単位のパレット化率が底上げされる。
まとめ
青果物のパレット化率は、(1)集出荷段階の数値(青果物全体59.4%、野菜64.9%、果実21.1%)、(2)卸売業者荷受け段階の数値(全国平均68.3〜73.9%)、(3)11型パレット構成比(パレット内40〜49%、荷物全体ベース1割未満)の3つの指標で多層的に把握する必要がある。品目別ではキャベツ・ねぎ・ほうれんそうなどの重量野菜は90%超の一方、たまねぎ・りんごは40%未満と大きな格差が残る。地域別では関東・近畿・九州が高く、東北・北海道は低い傾向。レンタルプラスチックパレット比率は1割未満で、共同プラットフォーム実装の余地が大きい。2030年度80%目標までは20.6ポイントの距離があり、毎年3〜4ポイント改善する加速ペースが必要となる。選果場改修との同時切替、レンタル方式への移行、産地リレーでの規格統一、場内物流改善推進体制との接続という4つのレバーを協議会方式で並走させることが、現実的な達成シナリオである。
参考文献
- パレット化率把握のための卸売業者向けアンケートの結果(農林水産省、令和5年9月11日)
- 農産物等の物流標準化に関する取組について(農林水産省、2024年11月)
- 青果物分野におけるパレット化率について(農林水産省、令和6年3月)
- 青果物流通標準化ガイドライン(農林水産省、令和5年3月)
- 各産地における11型パレット導入・外装サイズ変更に係る取組状況(農林水産省、令和5年9月)
- 食品流通段階別価格形成調査(農林水産省)
- パレット標準化推進分科会 最終とりまとめ概要(国土交通省、2024年6月)
- 食品等の流通の合理化について(農林水産省)
- 2024年問題の振り返り(農林水産省、2025年11月12日 第7回官民合同タスクフォース 資料1-1)
- 11型レンタルパレット導入支援について(農林水産省)
- 物流生産性向上推進事業(食流機構)
- 労働力不足に対応するための標準仕様パレットの利用促進支援事業(国土交通省)
- 青果物のフィジカルインターネットの実現を目指して(農林水産省、令和6年3月)
- 青果物流通標準化検討会 第5回 資料5 各産地における11型パレット導入・外装サイズ変更に係る取組状況(農林水産省、令和5年9月)
- 今後の卸売市場整備の方向性骨子 令和7年3月改訂(農林水産省)
- 物流革新緊急パッケージ(内閣官房、2023年10月6日)
- 2030年度に向けた政府の中長期計画(内閣官房、2024年2月16日)
- 改正物流効率化法ポータルサイト(国土交通省)
- 農産物等の物流標準化の取組について(農林水産省、令和5年9月6日)
- パレット標準化の取組状況について(国土交通省、令和4年7月28日)
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