田んぼダムの仕組みを図解|排水口の絞り方・セキ板の種類・排水桝の設置方法と効果を解説

近年、頻発する豪雨被害への対策として、農地が持つ多面的な機能を活用した「流域治水」の取り組みが重要視されています。 その中核をなすのが「田んぼダム」であり、令和7年度から本格化する「地域計画」においても、地域の防災・減災対策として位置付けられ、国による手厚い支援が進められています。

目次

田んぼダムが洪水を抑える仕組み

田んぼダムは、特別なダムを建設するのではなく、既存の水田を活用して雨水の流出をコントロールする仕組みです。

Step1:排水口(落水口)を絞り、排水量を小さくする

大雨の際、水田の排水桝に調整板(堰板)を設置したり、排水穴を小さくしたりすることで、意図的に排水を制限します。

Step2:田んぼに雨水を一時的に貯留する

排水が制限されることで、降り注いだ雨水は一気に流れ出ることなく、一時的に田んぼの中に留まり、水田の雨水貯留機能が向上します。

Step3:貯留した水をゆっくり排水路へ流し、ピーク流量を下げる

雨が止んだ後、貯まった水を時間をかけて徐々に排水路へ流すことで、下流の河川が氾濫するリスクを軽減します。

通常の落水口との比較図(流量・水位の違い)

通常の落水口では雨水がそのまま排水路へ流れ込み、河川の急激な水位上昇を招きますが、田んぼダムでは流出の「ピーク」を抑制し、地域全体の安全性を高めます。

田んぼダムで使う器具の種類と選び方

田んぼダムの実施には、排水をコントロールするための資材整備が不可欠です。

①セキ板(堰板)の種類・材質・サイズの目安

排水桝の溝に差し込んで使用する堰板の購入費用は、補助事業の対象となります。

②田んぼダム対応型排水桝(調整マス)の構造と設置方法

通常の排水機能に加え、排水量を制限できる構造の排水桝を設置します。 これは「農地耕作条件改善事業」などのハード整備として支援されます。

③既存の落水口に後付けできる調整板・スリット型桝

現在使用している落水口に、排水を絞るための堰板を追加で整備することが可能です。

器具の費用相場と入手方法

農地耕作条件改善事業を活用すれば、堰板の購入費や排水桝の設置費が定額等で補助されるため、自己負担を抑えて導入可能です。

排水口の絞り方と水位管理のポイント

絞り幅(開口部の大きさ)の決め方

地域の「流域治水プロジェクト」に基づき、下流河川の容量に合わせて最適な排水量が検討されます。

田んぼの規模・地形別の適切な貯留水位の目安

一筆ごとの状況に応じ、畦畔(あぜ)の高さから溢れない程度の安全な水位を維持するための地元調査・調整が行われます。

水稲の生育ステージ別の水位管理との兼ね合い

平常時の営農に支障が出ないよう、必要に応じた排水管理の省力化に向けたICT水管理システムや自動給水栓の導入も検討されます。

大雨時・台風時の緊急対応(調整板の外し方)

想定以上の雨量や緊急時には、適切に排水機能を回復させる運用が求められ、これに伴う地元調整もソフト支援の対象となります。

田んぼダムの効果をデータで確認する

貯留効果が約2倍に向上した事例(静岡県)

水田貯留機能の向上は国の政策目標として明記されており、地域の多様なニーズに応じた機能向上が図られています。

ピーク水位が30分後ろ倒しになった事例

ピーク流量を下げることで、河川の氾濫を抑制する効果が期待されています。

低平地・傾斜地でそれぞれ異なる効果

中山間地域などを含む多様な地目・区域において、それぞれの特性に合わせた貯留機能向上が図られます。

地域全体で取り組むと効果が飛躍的に高まる理由

「地域計画」に基づき、一定のまとまり(団地)全体で取り組むことで、河川への流入総量を効果的に抑制できるからです。

田んぼダムと「流域治水」の関係

流域治水とは何か・田んぼダムの位置づけ

河川改修などのハード整備だけでなく、農地を含む流域全体で洪水対策を行う考え方であり、田んぼダムはその主要な施策に位置付けられています。

河川管理・排水路整備・田んぼダムを組み合わせる考え方

「流域治水プロジェクト」等において、河川管理と農業用用排水施設の整備を一体的に進めることが推奨されています。

「宇都宮市総合治水・雨水対策推進計画」での活用事例

全国の流域治水対策を実施する区域で、同様の取り組みが進められています。

畦畔整備が必要な理由と整備方法

貯留水位を高めるには堅固な畦畔が必要

雨水を一時的に溜める際、畦畔(あぜ)に負荷がかかるため、漏水防止や強度の確保が必要になります。

畦畔の補強・補修の方法と費用目安

劣化した畦畔を更新したり、補強したりする工事が必要となります。

畦畔整備に使える補助金(農業競争力強化農地整備事業)

「農業競争力強化農地整備事業」や「農地中間管理機構関連農地整備事業」を活用することで、畦畔の更新整備に対する国費の支援(1/2や定額、要件を満たせば農家負担ゼロ)を受けることができます。

田んぼダムの管理作業の流れ(年間スケジュール)

田植え前:調整板・排水桝の設置・点検

営農開始前に、調整板の損傷がないか、桝に土砂が詰まっていないかなどの地元調査・調整を行います。

生育期:水位管理・降雨時の確認

大雨が予想される際、必要に応じて排水を制限します。 多面的機能支払交付金を活用した草刈りや泥上げ等の共同活動と併せて実施されます。

収穫後:調整板の取り外し・排水桝の清掃・冬期管理

冬期は施設を点検し、次年度の貯留機能維持に備えます。

よくある質問(FAQ)

調整板・排水桝は自分で設置できるか?

簡易な堰板の購入・設置は可能ですが、桝の交換等は「農地耕作条件改善事業」などを活用し、関係機関と連携して行うことが一般的です。

既存の落水口を改造する場合に許可は必要か?

土地改良区や市町村が管理する施設の場合、将来の計画との整合性を確認するため、事前の相談と合意形成が必要です。

セキ板・排水桝はどこで購入できるか?

事業の実施主体(農地バンク、都道府県、市町村等)を通じて、計画に基づき整備・導入されます。

水稲の作柄が悪くなった場合に補償はあるか?

事業実施にあたっては、農業者数2者以上の合意や「協議の場」での話し合いが前提となります。

相談窓口はどこか(市区町村農政課・土地改良区)?

最寄りの市町村、農業委員会、土地改良区、または農地バンク(農地中間管理機構)が窓口となっています。

まとめ

田んぼダムは、地域の安全を守るだけでなく、「地域計画」の達成に向けたインフラ整備を後押しする重要な取組です。 農地バンクを活用した「農家負担ゼロ」の整備や、多面的機能支払交付金などの支援策を最大限に活用し、地域の営農環境の向上と防災の両立を目指しましょう。

参考文献一覧

  • 地域計画記載例・PDCAサイクル
  • 地域計画のブラッシュアップに向けた取組
  • 地域計画のブラッシュアップのイメージ(新規就農者誘致)
  • 地域計画のブラッシュアップの進め方
  • 農業生産基盤整備の推進(概算要求資料)
  • 水田貯留機能向上(田んぼダム)の取組支援
  • きめ細かな耕作条件改善・高収益作物転換への支援
  • 農地耕作条件改善事業の実施要件・区域
  • 農業経営支援策活用カタログ2025(中項目一覧)
  • 地域の抱える「人と農地の問題」の解決策を話し合いたい
  • 農業用用排水施設整備と併せて荒廃農地の発生防止・解消を支援
  • 農地耕作条件改善事業(田んぼダムの支援内容)
  • 土地利用調整・スマート農業導入の支援
  • 高収益作物転換・排水桝と堰板の整備イメージ
  • 農業水利施設等の整備に係る支援(自動給水栓・パイプライン化)
  • 多面的機能支払交付金(農地維持・資源向上支払)
  • 地方農政局 農地政策推進課 お問い合わせ先一覧
  • よくあるご質問(回答):農地バンク・地域計画・目標地図
  • Q17 農地バンクを活用した農家負担ゼロの基盤整備事業について
  • 地域計画(地域農業経営基盤強化促進計画)の概要

この記事を書いた人

精密農業編集部

精密農業編集部は、農業の現場で起きる「うまくいかない」「判断に迷う」といった状況に対して、原因や条件を整理し、考え直すための材料をまとめています。

農家の方が自分の圃場や条件に照らして判断できるよう、事実・前提条件・注意点を中心に情報を構成しています。

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